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講評のようなもの E(2)

 投稿者:川部  投稿日:2010年 7月17日(土)11時54分19秒
返信・引用
  ●2:誰もいない部屋(外は雨)について。このカットは、単に部屋に人がいなくなったということを示すことや、外に雨が降っているということを示すこと以上の力を持っているように思いました。その一番の原因はこのカットの長さにあるように思います。男が出て行った後カットが変わり、居間の横ポジの引きの画になった時、初めて実際に雨が降っている様子を確認するために、まず視線は窓外の降り続けている雨へ、その後は誰もいない室内の様子へと移っていきます。ここでカットが切り替わるのではなくて、その後も画面が続くために、さらにそこから見るもの/感じるものを受け取ろうとするのかもしれません。あるいは、出て行った人物にカメラがついて行くわけではないので、部屋を出て行った人物たちの感情や行為はこのカットでは展開したり補完されたり説明されたりすることなく、宙づりの状態で保たれます。そのことが、この画面を見ていく基底の感覚になって、画面を見ていく注意力を敏感にさせるのかもしれません。この時、部屋の美術を通してそこに住んでいる男の生活や女との関係を見て取ろうとしたり、窓外の雨を意識することで外に出て行った二人のことへ意識がいったり、あるいはそれまでに話された二人のセリフを思い出したり、それまでの人物の関係や物語の展開とあいまって、誰もいない部屋そのものの内に感じる対象を生み出していくことができているのかもしれません。
 このことが、パッと見の情報量を越えて(単なる説明を越えて)、多様性に開かれたまま存在するカットとして、あるいは何かを見せようとしているのだという作品の態度として迫ってくるカットとして、この誰もいない部屋のカットを成立させているように感じられました。

(終)
 
 

講評のようなもの E(1)

 投稿者:川部  投稿日:2010年 7月17日(土)11時49分49秒
返信・引用 編集済
   これから書くことは、作品を見ながら感じ考えたことを、なるべくまずはその時系列に沿って、その順番で並べながら、しかし同時間的に生まれた複数の考えの道すじや感じ方の在処を、なるべくその都度記述しようと試みたものです。決して、映像の連なりを論理的に意味づけていくことを目的にしているわけではありません。その中で、いくつか特に気になった点については、●を記して、最後に別途書くことにしました。全体的に括弧の多い読み難い文章になってしまいましたし、あまりにもだらだらと長くなってしまっている感もありますが、それも上記のことを試みた結果ですので、どうかご了承ください。


◆E班『間(あわい)』

 タイトルの字幕、フェードアウト。古いアパートの廊下。波板から透けて入る光がわずかに赤みがかっているように見える。(もしかしたら夕方なのかもしれない。)足音が聞こえてくる。突き当たりのドアの右側に階段があるのか、男が姿を現しカメラ手前のドアの前で止まる。手には鍵を持っていてすぐにドアに差し込む。すぐ後ろからもう一人やってくる(女だ)。男は鍵を開けドアを開ける前にチラと女の方を見るが何も言わず、そのまま部屋の中に入る。(女の入る意志を感じ取ったのか、確かめたのか、そのつもりだったのか、ドアを閉め切らない男。)開け放しのドアから、ゆっくりと女も部屋に入る。(二人は一緒に帰って来たようだ。)女は白いコートを着ている。
 (画面が台所越しの玄関の引きに切り替わる)男は流しで手を洗っているのか、右手だけを水に浸している。右手だけ汚れているのかもしれないし、右手だけ冷やしているのかもしれない、と思う。左手では鍵を握りしめている。台所の小窓から差し込む光で男の顔が照らされていて、その顔は放心したように無表情だ。玄関に入って来た女は男の様子を何気なく見ながらも、靴を脱ぎそれを揃える。男は女が入って来たことには特にリアクションを示さず(示さないことがリアクションなのかもしれないが)、そのまま奥の部屋に歩き出す。
 (画面は居間の引きへ)すぐに何か小さく壁を叩いたような音がする。男が居間の敷居の手前で手を振り上げているから、台所と居間の間にある梁を殴ったのかもしれない。そのすぐ後に、男は居間に入りながら、窓際の座卓に向かって持っていた鍵を投げつける。画面手前にはベッドが見えている。座卓の前まで歩いてくると上着を脱ぎ、その上着を畳に叩き付けながら座り込む。ほぼ同時に女も居間の方へやって来て、男から少し距離をとった場所(台所に近い側)でコートを脱ぐ。(ここは男の部屋なのかもしれないが、女の、迷わず部屋に入る様子から、女は初めて部屋に入るわけではないようにみえる。)女は立ったまま男の方を見ている。男は座り込むとポケットからなにかを取り出そうとするが、取り出すのに少し手こずっている。女は台所の方に一旦戻りタオルを持って、男のそばに戻ってくる。男が一瞬女の方を見る。女は少し勢いをつけて歩いていき男のそばに座る。男の取り出したものはタバコで、男はそれに火を点ける。女は男の手を取りタオルで拭こうとするが、男はそれを拒み、女の手を振りほどく。(男のここまでの態度から帰って来る直前にものすごくムカつく出来事が何かあったのだろうと感じる。あるいはその出来事があったから帰って来たのかもしれないと思わせるほどに、鍵を投げつけたり服を叩き付けたり物に当たっているように見える行動によって、男の苛立ちが分かる。女の動きとは関係なく男の動作が続くので、その苛立ちの対象は女ではないようだ。女はどこか冷静にその様子を見ているから、男の苛立ちの原因を知っていて、それに対処しているようにもみえる。が、同時にどこかに怖いという感情もあるのか時々あえて勢いをつけて動くような仕草も見受けられる。)女がタオルで男の右手を拭こうとする動作が、単に水で濡れた手を拭いてあげる行為だとすれば、一連の男の動きから少し子供扱いすぎるようにも思えるし、右手だけを取ろうとすることからも、右手にケガでもしているのかもしれないとも思う。それともなにか別の理由があるのかもしれないが、遠くて男の右手をよく見ることはできない。男はタオルで拭かれるのを拒みながらも女の手を振り払った瞬間、女の反応が気になったのか一度女の方を見る。(思ったより強く振り払ってしまったと男は感じたのかもしれない、と思う。)女と目が合うと、すぐに視線をそらす。女はタオルを持って台所の方へ行く。男はタバコを落ち着きなく吸いながら、その場で靴下を脱ぎ捨てる。(二人の一連の動きと部屋の様子から、二人は恋人同士に見える。この部屋は男の部屋なのかもしれないが、よく見るとピンクのハート形クッションやクマのぬいぐるみがぶら下がっていたりして、女の持ち物と思われる物も所々に見受けられるので、女はよくこの部屋に来るのかもしれない。もしかしたら同棲しているという可能性もあるかもしれないが、それにしては女の態度が、部屋に置いてある物への触れ方や座り位置、そもそものコートの脱ぎ方などがよそよそしすぎると感じる。が、それは男が今機嫌が悪いからそうしているという可能性もあるのかもしれない、とも思う。)女がなかなか居間に戻ってこない。男は靴下を脱ぎ捨てた後、台所の方を少し見て、頭を押入の柱にもたれさせる。台所と居間のしきりの辺りで女が動いている影がゆらめく。(カメラは台所へ)女は台所のテーブルでペットボトルの水をコップに注いでいる。注ぎ終わると少し考えるように間を置き、思いを固めたように勢いをつけて居間に戻る。(カメラは男の斜め上からのヨリ)女がコップを2つ持って男の横に来て「はい」とコップを差し出しながら座る。男はタバコを吸っていて受け取ろうとしないが、女がコップを差し出し続けるので結局受け取ることになる。少し苦笑いのような息を吐くと、タバコをもみ消し「なんでだろうな、なにもかも真っ暗だよ」と言う。コップを握った右手の甲が赤くなっているのが見える。(右手にケガをしているのかもしれない。冒頭の水道のくだりや、女とのタオルのやり取りはこのことが関係していたのだと分かる。)男は水を一口飲むと座卓に置き、「つくづくイヤになった、こんな惨めな自分」と言う。女はなにかを言おうとしたのか無理矢理笑いながら息を吸うが男の言葉とタイミングがかぶる。少し間をあけて、「それは、誰だって、今は、惨めよ、こんな世の中だったらね」と細かく分節を区切って男に話しかける。(二人の関係にとって、男がこのような状態になることは、部屋に入ってからの女の男への対応の様子で何度もあったようにも見えるが、女のやけに分節を区切る言い方にもしかしたら女は少し男のことを怖がっているのかもしれないとも感じるから、もしかしたら女にとって男のこのような状態は珍しいことなのだが冷静さを保とうとしているだけなのかもしれない。ただ、女のこの部屋での振る舞いには空間把握や物の置き場などへの対応に慣れを感じる。)男は苦笑したような困ったような息を吐く。女の「ね」と言う念押しには答えず、男は「なあ、俺ってなんかあるかなあ?‥‥たまらないんだよ‥‥」と自分の心境についての独白が始まる。時々、手の指を絡めたり膝を抱えたり息が荒くなったり、男は興奮を押し殺そうとしているようにも見える。女はじっと聞いていたが、途中でなにかを言いたそうに姿勢を変えたりする。(その独白を聞いても男の苛立ちの直接の原因は結局のところなんだかよく分からないが、「なんかこうむちゃくちゃに暴れたいんだ」と言うセリフや、「なんでだろうな」という最初のセリフや、それを発する男の仕草などに、何だかよく分からないが苛立ちが抑えられなくなることの怖さを本人も感じているのかもしれないことや、それをなにか別のものにぶつけてしまうことそのものを後悔している気持ちも感じる。そして、今日はどこかで暴れて来ちゃったのかな、というようにもみえる。)男の独白が一段落すると、ふと間ができる。男は女に目線をやる。女は男と目を合わせた後、目線を落とす。男は姿勢を起こし、女の方に近づき向かい合う。(画面が二人のヨリへ)男は下を見る。男の肩が動く。トンっと畳になにかを置く音が聞こえる。(男が女の手からコップを取り、畳の上に置いたようだ。)男は顔を女の方に向け、画面外なので見えないがたぶん腕を両手で掴み、「俺にはお前だけなんだよ、暖かいものはお前だけなんだよ」と言う。じっと男の顔を見ていた女は、視線を外し下を見た後、もう一度男の顔を見つめる。と、男は勢いよく女の唇に自分の唇を押し当て、そのまま体ごと押し倒す。(画面は引きへ)女が少しいやがったのか、男は女の手を抑えながら女にのしかかり体をまさぐる。女は驚いているのか何か小さく声を発しているが、言葉になっていない。(画面が二人の顔のアップ)男は女の服をまくり上げながらまた唇で女の顔や首をまさぐる。女はふと目を開け天井を見て、また目を閉じ、自分の両腕を男の首にまわす。男の動きを受け入れるように抱きしめる。男の吐息が聞こえる。が、男の動きが止まる。(なぜこのタイミングで男は動きをやめたのだろうかと思う。自分のとった行動に対する女のリアクションを感じたことがその引き金なのか、引き金だとしたらどんな感情の変化があったのだろうか。あるいはそのことは関係なく、男の中で勝手に浮上した感覚によるものなのか。)男の髪を手でかきあげる女。だが、男は女から体を離す。その動きを目で追っている女。その表情は無表情のようにも見えるし、どこか戸惑っているようにも見える。首を起こし、男の方を何度か伺う。(画面が引きへ)女にまたがりながらも体を起こしている男と、その様子を首だけ起こして見ている女。少しの間があり、体をちゃんと起こし男のことを見つめる女。男は下を向いていたが、結局完全に女から離れ、正座の姿勢になってしまう。その様子を見ていた女は戸惑ったように「どうしたの?」と問いかける。(この言葉によって、男が行為を始めたことよりも止めたことに対して、女が戸惑っていることが分かる。)体勢を整え座り直し、男の膝をさわる。それでも答えない男の腕の辺りの服をつかみ「ねえ」と小さくつづける。男は頭を右手で抱えながら「ごめん。なんかちげえな」と言って、(男の「なんかちげえな」という言葉は女に向かっていうというよりは、自分自身に言っているように感じる。それは、女が自分の行為を受け入れてくれたことに対する反応というよりは、女に対してとった行動に自分自身で感じた違和感の表明のように聞こえる。こんな風にしても慰みにしかならないと思ったのか、女の受け入れてくれた動きを感じてふと我に返ったのか、あるいは逆に興醒めしたのか、女がどこか身勝手な男の行為を受け入れてくれたにも関わらず、男はそのことを感じずにむしろ自分の感覚や感情だけで、またその行為をやめてしまったようにも思える。)俯いていたが、女と一度目が合うとそれを避けるように、またもとの押入の前の座り位置に戻る。女はなんだかよくわからないといったふうに呆然としている。(女は何を思っているのだろうか。戸惑いだけではなくて怒りや恥ずかしさもあるかもしれない。)男は指で畳をこすったりしながら、女の方を一度見て又視線を戻す。女はずっと男の方を見ているようだ。しばらくして、男は水を一口飲む。女は服を整え、何も言わずにゆっくりと立ち上がり、置いてあったコートとバッグを持ち居間を出る。(その様子は、部屋に帰って来てから女が男に示していた態度とは大きく異なるようにみえる。帰って来てからの女の態度は男が何を感じ考えているのか察しようとするためか、視線はずっと男に向けられていたが、ここで女は男の方をほとんど見ないようにみえる。自分が部屋を出ることが男からどう見られるか、ということを男の反応から探ろうとせずに出て行くようにみえる。初めて女が自分自身の感情によって動いたところかもしれない。)その様子を不安そうに見ていた男は、「帰るの?」と聞きながら立ち上がり、玄関の方へ行こうとする。(画面は玄関のドアのヨリへ)ドアを開けて出て行く女の後ろ姿が見える。後ろを振り返る様子はない。ドアが閉まりかけた瞬間、画面左から男が勢いよく飛び込んできて腕を延ばす。男がドアにぶつかる音がする。男は女の腕を取ったのか、自分の腕を引き寄せ「帰んなよ」と言う。(女がまだ廊下にいるのだということが分かる。)開いたドアの隙間から差し込む光で、男の顔だけ照らされている。その目はきっと女を見ているのだろう。一度手を離すが、また女が帰ろうとしたのか、また腕を延ばし女の手を掴んだようだ。それをひっぱりながら「帰んないでよ」と何度か言う。女の手が、ドアの枠越しに手首の辺りまで映る。女の小さな泣き声が聞こえる。男は「やだよ!」と言いながら、もっと強く女を引き止めようとするが、女がなにか言葉にならない声を上げると、ふと手を離す。(男は右手に女の白いコートらしきものを持っている。女から奪ってしまったのかもしれない。男の「やだよ」という言葉の響きには、わがままな物言いというよりは、どこか自分の行為に対する反省なのか、女がいなくなることへの不安なのか、一緒にいてよという懇願なのか、弱々しさと切実さを感じる。)ドアが閉まる。玄関が暗くなる。女の足音が遠くなる。足に何かをひっかけたのか男は少しよろける。しばらく放心したように立っていた男は、ゆっくり居間に向かって戻っていく。(あんなにも強引に引き止めようとしたにも関わらず、追いかけようと思えばすぐにでも追いかけられるのに追いかけないので、女の手を離した時の男の視線の先にはどんな様子の女がいたのだろうか、というようなことを考える。)
 (画面は居間の引きへ)男はゆっくりゆっくりと歩いてきて、居間の中央で立ち止まる。(手には女の白いコートを持っていない。)しばらく立っていた後、しゃがみ込み、手で頭を抱える。手と膝を畳につき、うずくまるような格好になる。男は手で畳を叩いたり近くにあった服を掴んだりしている。(男は何を考えているのだろう。女がなぜ帰ったのか自分の行動を振り返っているのだろうか。単に腹を立てているのだろうか。それともこのことが影響を与えるだろうこの先の二人の関係について考えているのだろうか。)なにかの音がだんだんと聞こえてくる。(雨の音のように聞こえる。)男の動きが少し静まる。(画面は男の斜め上からの視点へ)俯いていた男はゆっくりと顔を上げる。(画面は男の真横からのアップへ)男は完全に顔を上げる。窓の外を見ているようにみえる。しばらくじっと動かずに見ていたが、何を思ったのか、すっくと立ち上がると、勢いよく玄関の方へ振り返りそのままドアに向かって歩き出す。(画面は台所の横ポジへ)男はドアを開け出て行く。男の足音が勢いよく遠ざかる。(●1)

 (画面は誰もいない居間の引き)誰もいない居間。(●2)窓の外が見えている。外には少し離れた場所にビルのような建物が見えている。大粒の雨が降っている。手前のベッドや、窓の前に置いてある座卓の上の散らかり具合や、棚に置いてある何かにかかったベージュの布がよく見える。強さに波のある揺れるような雨の音だけが聞こえている。(先程の男の様子は、この雨によって生じたのかもしれないと感じる。男は土砂降りの雨の中どこに行ったのだろうか。傘は持たずに出て行ったように思える。女を追いかけたのかもしれないし、それとも部屋に一人でいることに耐えられなくなったのか。しかし雨を見て外に意識が移ったように見えたので、なにかしらそのことは行動に関係していそうに思う。)雨の中、女はどうしているだろうかとも思う。

 (画面が変わり玄関のドアへ)ドアの手前の流しに歯ブラシが2本入ったマグカップ(二人の歯ブラシなのかもしれない。)がのっているのが見えている。と、廊下の方で音がして、ドアが開く。先程出て行った女が入ってくる。(なぜ戻って来たのだろうか?雨が降ってきたことと関係があるのかないのか。)髪は雨で濡れているのか、額に張り付いている。玄関に入ると三和土を見つめた後、なぜか一度廊下の方を振り返る。男の靴がないことに気付いたのかもしれない。しかし、また向き直ってドアを閉めずに部屋に上がると、そのまま居間まで行き(画面が顔のアップへ)部屋を見回す。首筋も濡れている。その後トイレらしき扉も開け中を見る。どうやら女は男を探しているようだ。しばらく俯いていたりドアの方を見たりぼーっとたたずんでいるが、(画面は居間の横ポジの引きへ)居間に入り座り込む。女は部屋の中を見回していたが、ふと顔についた水滴を払うような仕草をすると、その流れで着ていた白いコートも脱ぐ。ヒーターの上のタオルを取り、頭を拭きながら、ふと立ち上がり腿のあたりをまさぐり、何かを脱ぐような仕草をする。すぐにストッキングだとわかる。水滴が落ちたのか、タオルで畳を拭く。振り返ると玄関の方へ歩いて行く。(画面が玄関へ)女は開いていたドアを閉める。雨の音が小さくなる。(というより、雨の音が大きかったのだとこの時気付く。)居間に戻ると(画面は再び居間の横ポジの引きへ)女はまた先程と同じ場所に座る。落ち着いたのか少しの間動かずにいた後、部屋をまた見回し、窓際の座卓のところまで立ち上がらずに行き、何かを触ったりする。(男のタバコか?)と、少ししてそのまま仰向けに倒れて横になる。天井を見つめていたが、ふと気付いたように近くにあった黒いブタのぬいぐるみをなでたり、また天井を見たり、足をだらんとさせたり、ベッドの脇にある何か(男の服?)を触ったりする。窓の外を見ようとしたのか体勢を変え、顔を窓の方に斜めに傾ける。(画面は女の顔のアップ)女は眠っているのか、目をつぶっているようにみえるが、顔の(カメラの)角度で本当に目をつぶっているのかはよく分からない。よく見ると瞬きをしているのか、睫毛が時々動いているので起きているのかしれないとも思う。廊下の方で重い靴の足音がする。女の目蓋がはっきりと開き、女の目が見える。女はドアの方に向かって首をひねる。ドアが開くギーっという音とほぼ同時に、女はゆっくりと体を起こし、ドアの方を見つめる。(画面がほぼ真横からの顔になっているので、表情はよく分からないが、とびきり驚いた様子もないのでやはり予想していた通りの人物がそこには立っているように感じる。男が帰って来たのかもしれない。)ゆっくりとドアの軋む音が響く。女はじっとドアの方を見ている。ドアが閉まる音。女はそのまま見ている。数秒して暗転。エンドロールの字幕の間、雨の音も続いている。字幕が終わり、雨の音もフェードアウト。


●1:男は冒頭から苛立ちを隠すことなくあらわにしています。それは大袈裟な動作や息づかいなどからすぐに見て取ることができます。と同時に、苛立ちを爆発させながらも、時々女の方を気遣うような伺うような男の態度から、その苛立ちの対象はこの部屋にいる二人の間にではなく、この部屋の外で起きた(感じた)ことに端を発しているように感じられます。だからこそ、女がいることを少し気にしつつも男が苛立ちを過剰にあらわにすること(女の目の前でそれをあらわにすること)が許されているようにも思えます。(その根本的な苛立ちの原因は、男の生活の中にあるのかもしれないことがその後の男の独白の中で醸し出される程度。)そして同時に女も、そんな男のことを気遣うような行動によって、その苛立ちに直接関わる人としてではなく(自分も直接そのような苛立ちを感じている訳ではないということを意識した人として)、どこか外側から男の感情を鎮めようとしているのだと受け取れます。これは広げて言うと、女にとっては冒頭から男の独白が終るまで、男の意識の方向はずっと男自身の側か、怒りや苛立ちの対象そのものに向けられているとも考えられ、女に向いているわけではないということだとも言えるわけですが、このことが初めて大きく変化するのは、女が「俺にはお前だけなんだ、暖かいものはお前だけなんだ」と言われ、押し倒された時だと考えることもできるでしょう。この時を、男の意識と体が共に女の方に向いた瞬間だと考えるならば、男の一方的な行動のように見えつつも、その男の行為を受け入れようとした女の行動も理解できるような気がします。同時にそれは、男がそれでもまた自分から行為をやめてしまうことに対する女の対応(つまり、まったく振り返ることもせずに出て行こうとすること/怒り?動揺?羞恥?などの多様な感情の在処)を支えてもいるように感じられます。この、男の方をまったく振り返らず、ある種無表情に部屋を出て行こうとする行為が体現している感情や感覚の多様さや深さは、その後、男に無理矢理引き止められたときの女の感情の決壊として現れることで事後的にさらに補強されています。

 このようにこの作品においては、全編を通して人物の態度や行動に対して、曖昧で複雑で微妙で繊細な感覚の揺れ動きを感じました。それは体の動きや目線、些細な仕草、言葉の言い方や響き方、そのタイミングなど色々な要素が合わさることで生まれているように思います。

 他にも例えば、女の、冷静に振る舞っているようで、時々勢いをつけて動作を始める体のあり方や、言葉の喋り方の中に、男のことを心配しつつもその動きの過剰さに体がどこかで恐怖を感じてしまっているようにも見ることもできるし、男の「やだよ!」という言葉がことのほか甘えているように感じられることもその時の男の切実さと相まって、男の体格や態度や顔つきとは違って以外と女に甘えた部分もある人なのかもしれないと思わされたり、男が女をまさぐるのをやめる際の動機の在処の多様な可能性にも、それを受けて女が感じただろう複雑な感情にも、一つの意味には還元できない人物それぞれの思いや考えや感じ方、あるいは逆に反射的な動きや本人もよく分かっていないかもしれない感覚があるに違いないと思わされたりしました。そのことが、意思疎通をはかりながらも、お互いに誤解や勘違いやすれ違いや思い違いを起こしつつ一緒にいるのだということを確認させてもくれます。見る側にとっても、明確に/具体的に登場人物の感情が分かるわけではなくとも、そこで人物が自立的に何かしらをちゃんと感じているのだということが分かることで、何を感じ考えているのかの分からなさも含めて画面を見ていくことができるようになっているということかもしれません。
 特に、一度出て行った後、誰もいない部屋に帰って来てからの女の動きには、そのことを強く思わされました。なぜ戻って来たのかは分からないが、男がいないことを確認してもその場に残ることを判断している様子から、もう一度男と何かを話す機会を作ろうとしているようにも見えるし、部屋に帰って来たときの切羽詰まったような何かを決心したような女の表情からは(雨に濡れていることもその表情の見え方に影響しているかもしれないけれど)それがどんな感情であっても、何かしら一つの決断のために帰って来たように思えます。しかしにも関わらず、部屋に戻って来た後、男がいないことを確認した後の、あまり深刻そうな感じではなくむしろ雨で濡れてしまった体への対応を普通にしている感じからは、単に思い詰めて戻って来たのではないかもしれないとも思わされたり、もしかしたら雨に濡れた体への対応をしている内に気分が落ち着いてしまったのかもしれないとも思えるし、部屋に置いてあるぬいぐるみへの反応なども合わさることで、この女が普段この部屋にいる時の姿をも垣間見たようにすら思えました。(このような人物たちの行動の意味や動機、感情の種類や出所の多様さは、物語の要素の駒として人が存在するわけではなく、自立した動きと感覚を持った存在として人がいるのだと感じられる原因のように思います。)


 ※全文載せられなかったので(2)につづく
 

講評のようなもの F

 投稿者:川部  投稿日:2010年 6月20日(日)10時52分52秒
返信・引用
   これから書くことは、作品を見ながら感じ考えたことを、なるべくまずはその時系列に沿って、その順番で並べながら、しかし同時間的に生まれた複数の考えの道すじや感じ方の在処を、なるべくその都度記述しようと試みたものです。決して、映像の連なりを論理的に意味づけていくことを目的にしているわけではありません。その中で、いくつか特に気になった点については、●を記して、最後に別途書くことにしました。全体的に括弧の多い読み難い文章になってしまいましたし、あまりにもだらだらと長くなってしまっている感もありますが、それも上記のことを試みた結果ですので、どうかご了承ください。


◆F班『通り雨』

 タイトルの字幕の後、誰もいない部屋の情景。夕方のようで暗いオレンジ色の光。車の通る音がこもった音で聞こえている。女の声と足音が聞こえてくる。どうやら桜の話をしているようだ。台所の前にある小さな窓に、人影が2つ映る。ドアが開き、男が一人入って来て、ドアが閉まる。男は部屋に上がるとカメラ手前の居間の方にやって来て壁を触る。電気が点く。(男が電気を点けたようだ。)ポケットの中から小銭やタバコなどを出してテーブルの上に放る。ドアが開き、もう一人玄関に入ってくる。薄いピンクのカーディガンを着た女。男の方を気にしながらゆっくりとした動きでドアを閉める。男はテーブルの脇に座りタバコを吸い始める。男は頭にタオルを巻いていて、グレーの長袖Tシャツは絵の具か何かで白や黄色で汚れている。テーブルの上にはカップ麺の容器や飲みかけのペットボトルが出したままになっている。ここは男の部屋なのだろう。女は男の靴を揃えたのかかがみながら、男の方の様子を気にしている。まだ三和土から上がっていない。(二人は一緒に帰って来たはずで、男は女が入ってくることは知っているようだし、入ってくること自体は許しているようだが、何か怒っているのかイライラしているのか、女の方を無視しているように見える。)
 (画面が玄関に立つ女へ)女は「あがるよ」と男に向かって小さく言うが返事は返ってこない。女は靴を脱ぐとかがんでそれも揃える。女はゆっくりと居間の方へ歩きながら、「あとでスーパーに買い出しに行こうよ、ゆうくんの好きな卵焼きも作りたいしさ」と言う。その表情と動きは何かを怖れているのかとてもゆっくりで強ばっている。(●1)二人はこれからどこかに行く予定だったのかもしれない。と思うと同時に、女は何度もこの部屋に来たことがあるのだろうとも思う。そういえば廊下での会話で花見の話をしていた。(画面が居間側へ)男(ゆうくん)は女の言葉には答えず、女が居間に入ってくるとそれを避けるようにタバコを置き立ち上がり台所へ。女の方を一切見ていないようにみえる。(画面は台所の流し越しに居間に立つ女へ)手前では男が頭からタオルを取り、顔を洗い始める。(男は仕事帰りなのだろうか。格好や服の汚れから何か体を使う仕事のように感じる。)流しの上にはカップ麺の容器がいくつか見えている。男の様子を少し振り返りながら見ていた女は、男の方を気にしながら「ゆうくん、ビール全部飲んじゃったよね」と近所に見つけた酒屋にビールを後で買いに行こうと言う。男は相変わらず反応を示さず、居間に戻って来て、女に背を向ける形で座る。(画面は再び居間へ)女の様子と、男の態度から、女が男を怒らせたように思えるが、二人の間に何があったのか、男が何を怒っているのか、その内容を女が分かっているのか、などはまだ示されていない。女もコートを置きながらテーブルの脇に座る。男はまたタバコのつづきを吸いはじめる。女は伺うようにお腹が減っているか聞くが男は反応しない。気まずさからか、話しかけるなということか、脇にあった漫画本をちゃんと読むでもなくペラペラめくりだす男。「じゃあ、お茶入れるね」と女が立ち上がったところで、初めて男は「いい」と小さな声で女の行動をやめさせる。が、女がそれでもお茶をいれようと歩いて行くので、漫画を投げ捨てながら「いいって!」と大きな声で言い放つ。
 (画面は女の横顔アップ)女は台所の方で立ち止まり、ゆっくり振り返り強ばった表情で男の方を見ている。(画面は居間から玄関を見た縦ポジの引きへ)しばらくしてから「ごめんね、今日仕事場に迎えに行ったのマズかったかな。」と言う。(この時、二人はもともと会う約束をしていたのかもしれないことや、女が勝手に迎えに行ったこと、男が仕事帰りであること、そういうことが二人の間で初めてなのかもしれないこと、男が怒っている理由がそのことなのかもしれないことや、女は男の怒りの原因をなんとなく予想していたのだということ、だから服装が全然違うのだということ、つまり二人がどのようにこの部屋にやって来たのか、ということが色々想像される。初めてだとしたら女はどんな気持ちで迎えに行ったのだろうかという類推も。●2)男は初めてリアクションを示し、「ダメじゃないけど、おかしいでしょ。・・・・(女の横顔のアップへ)明らかにつり合ってないし」と言う。(この時、男が初めてちゃんと言葉を発するので、やっぱり男の怒りの原因はそのことにあるのかもしれないとも思えるし、あるいは単にそのこと自体を怒っているというよりは、男は自分たちの関係に対するなんらかのコンプレックスの様なものを普段から感じていて、そのことに対する女の無自覚さの方を強く攻めているのかもしれないとも感じる。)女は「つり合ってないってどういうこと」と、聞き返す。そのことはあまり意識していないようだ。(画面は男のよりへ)
 何て返したら良いか考えている様子の男、体を揺らしたり苦笑いしたりタバコを消したりする。手前のテーブルのゴミも目につく。男は「なんかだめなんだよね、どんどん自分がみじめに思えて来て、お前もそう思うだろ?」と振り返る。(画面は縦ポジの二人)いつの間にか女は先程と同じテーブルの脇に座っていて、「そんなことないよ」と男を見ながら言う。その後の二人のやり取りから、男が自分の仕事や生活に持っている不満(金が貯まらないこと、部屋が汚いこと、上司にぺこぺこすることなど)や、それに対して女の方は好きなことやって好きな物買ってるという風に男が感じているということや、女はそれをほとんど意識していなかったのか、本当にそんなことはないのか、まったく心外だというような態度が見て取れる。(画面が横ポジの引きになる)二人は黙ったまま。女の服装からは、そんなにお金があるようにも派手な生活をしているようにも見えない。居間の壁に立て掛けてある横倒しになったガラス戸が気になる。(どうしてここに立て掛けることになったのだろう。そのことに対する二人のリアクションはないので、もう結構長くこの状態なのかもしれない。と思う。)
 (また縦ポジのよりになる)会話の間で、男が女のことを気にしてちらちら後ろを見る。黙って下を向いたままの女。男は一息吐き、すこし笑いながら体勢を女の方に向き直して「ごめんごめん、今のなしだ。」と、自分から話を切り上げようとする。すると女も小さな声で「ごめんなさい」と謝る。男はよく意味がわからないといった様子で悪いの俺だよと言い、わざとらしく両膝を叩いて立ち上がる。座ったままの女に向かって「よし花見に行こう」と言って、玄関に向かって歩き出す。パンで追うカメラ。三和土で立ち止まったのか、もう一度動かない女を呼ぶ男。女は立ち上がり、玄関の方へ行き、立ち止まる。女が着いてこない感じなので、三和土のところで立っている男。(男も積極的に行きたいわけではなさそうに見える。もしかしたら話を切り上げることで女が戸惑うことが分かっていて、敢えて女を攻めているようにも感じる。)もう一度「ごめんなさい」と泣きそうな声で謝る女。男は、なんでそうなるんだよ、という感じで苦笑いをしたり「え、なんで?」と聞き返したり頭をかいたりしながら、靴を脱ぎ捨て居間に戻ってくる。女は立ち止まったまま。(カメラは男の動きに合わせて居間側へ)頭をかきながら「全部俺が悪いんだからさ・・・」と言い、その場に座り込んでから、少し考えたように「いつもそうやって、謝って逃げようとすんなよ」と、少し落とした声のトーンで言う。ため息を吐く。「お前が何考えてんのかわかんねえよ」と女の方を見ずに言う。(いつもそうやって謝って逃げようとすんなよ、というセリフによって、もしかしたら女はいつもその場の状況に向き合うことなく自分から謝ってしまうのかもしれないとか、そもそも何が今問題になっているのかわかっていないのかもしれないとか、かといって男の方も積極的に何か二人の間の問題について話すというよりは、自分のことを濁しているのか不利なことがあるのか単純にむかついていてうまく言えないのか、そのことを積極的に女に問うことはしないように見える。男の先程の仕事や生活への不満の表明が今回初めてなされたのかそうではないのか、今まで溜まって来た感覚が、仕事場に女が迎えに来たことで吹き出たのかもしれない?とか思ったりもする。ただ、何が二人の間に問題として発生しているのかは具体的にはわからないが、何か積極的に話されていない対象があって、そのことに対する互いの感情や感覚はズレているようではある。)
 (カメラ縦ポジ)台所で立ったままうなだれて下を見ている女。男は体勢を変え女の方を見れる状態にして女に向かって「もう帰れよ」と小さく言う。女は男の方に少し顔を上げ、一二歩動き、男の方に体の向きを変える。男は下を見ている。(女の横顔アップ)女の頭が上下に小刻みに揺れている。(何か言おうとしているのか、泣いているのか、動揺しているのか。)「いいから帰れよ!」と男の怒鳴り声。女はすぐには反応を示さないが放心したように、ゆっくりゆっくり体の向きを変える。●3(画面は居間の引き)うなだれている男。女の出て行く音がゆっくり続いている。出て行くドアの音とドアが開いた光がチラッと見え、外の車の音が大きくなる。ドアの閉まる音。男が頭を上げ、体勢を崩しながら息をつく。(やっと状況から解放されたような感じに見える。)しばらく何かを考え込んでいるような男の様子。画面がいくつか切り替わり、女のコート越しに男が映るところで女がコートを忘れて行ったのだと気付く。外の音が何か変化してきているが、何の音なのかはよくわからない。全面が雨に覆われた画面。夕方なのか、薄暗い灰色をしている。外の音の変化は雨だったことがわかる。

 (画面が再び居間の引き)男が布団の上で窓に背を向け、体育座りのような格好で頭を膝の間に入れて座っている。(時間が少し経過したようだ)頭を上げた時、頭の下に茶色いものが見え、コートを抱きかかえていたのだということが分かる。そのままコートを手に持ったまま布団に倒れ込む。うつぶせになり、布団の端を握ったり、何かを考え込んでいる様子。(女のことを考えているのかもしれない。男が手にしているコートを見ながら、そういえばコートを置いて行った女は今どうしているのだろうか?と思う。)(画面が外へ)雨に打たれている鉢植えの花が見えている。(●4)すっかり光は暗くなっている。雨が土砂降りであることが分かる。カーテンの隙間にチラッと何かが動く影を映ったところで、部屋の中の男の画面へ。(鉢植えのある窓がこの家の窓であることが分かる)男はいつの間にかタバコをくわえていて、カーテンを開けて外を見ている。窓の外に先程の鉢植えらしきものも見えている。(単純に外の雨を気にして、カーテンをめくったのだろうか。その動きの様子や表情からは、さっきコートを持ちながらうつぶせに寝ていた時の深刻さは感じられない。さらに時間が経過したのかも知れないと思う。)外を見ているうちに何かを思ったのか沈んだ表情でカーテンをもどす。(あるいは男の向ける顔の角度によって、なにか深刻そうに見えたり見えなかったりするだけなのかもしれないとも思う。)男の後ろの本棚に漫画が見えている。(スラムダンク?)その本棚の上に、いくつかのキャップと混じって、派手な柄のキャップがのっているが見える。(男は今、仕事着を着ているが、普段の格好は以外と派手なのかもしれない。)男は頭を抱えるように手で髪をかく。ピンポンと、ドアのチャイムがなる。が男の動きに変化や反応がない。もしかしたら聞こえていないのかもしれない、と感じる。少しの間を置いて、男の動きは止まり、顔を上げ二度玄関の方を見る。タバコを消す。もう一度チャイムが鳴る。男は目を伏せ、考え込んでいるようにみえる。(男には誰が尋ねて来たのかわかっているのか、それとも、女が帰って来たのかもしれないと思っているのか、もし女だったらどんな風に会えばいいのか考えているのか、躊躇しているようにみえる。外にいる誰かも、部屋の電気は点いているので中に男がいることは予想するだろうと考えられるが、チャイムだけで外から声をかけてくることもない。と同時に、チャイムの後に玄関から人がいなくなる気配もないように感じる。やはり女が帰って来たのかもしれない、とも思う。)男は立ち上がり、何度も立ち止まり躊躇しながらゆっくり玄関の方へ。(画面は男の足下を映す)歩いてドアの近くまで行くと、足下を照らす光が白く明るくなる。(画面は台所の横ポジの引きへ)男が壁のスイッチを触っている。電気を点けたようだ。流しにはカップ面の空き容器が大きくみえている。
 男は三和土に降り、ドアを開ける。開けたまましばらく立っている。外にいる人と話している様子はないが、予想通りの人だったことが態度からみてとれる。雨の音が大きくなる。(画面がよりへ)男がドアから手を離す。ドアが閉まらないので、ドアの向こうの誰かが持っているのかもしれない。男は三和土から上がる。開いたままのドアがしばらく映っている。なかなか人は現れない。(そのゆっくりな感じからきっと女だろうと思う。)女の顔が現れる。ゆっくりと体全体が現れる。男の方を伺うような視線。男がどうしているのかは見えない。女はドアに押されるように入りきると、ドアが閉まり、外の音が静かになる。雨のせいなのか服や髪がずぶ濡れになっている女。(画面が引きへ)男は女に半身を向けているのが見える。(先程の女の男への視線は、この後ろ姿を見ていたのかもしれない。)男が女になにか声をかけるが良く聞き取れない。女はうなずき、靴を脱ぎ部屋に上がる。(なにか招き入れる言葉だったようだ)女はかがんで靴を揃え、男の方を向く。(画面は外の鉢植えに変わる)雨がやんでいる。ずっと長い時間降っていたのに、あまりにも突然止んだように感じる。外の音が静かなのはドアが閉まったからではなく、雨がやんだからなのかもしれない。
 (画面は再び玄関)女がタオルを持って顔にあてている。男と女の立ち位置が動いているので、男がタオルを渡したのかもしれない。男が女の方に体を向ける。女の姿が男の背中で見えなくなる。(画面が角度の違うよりに変わる)女がタオルから顔を出し、男の表情を見て、天井を見上げ、泣きそうになりながら、またタオルに顔を埋める。と、男は左手で女の腕に触り、女を支えるような感じになる。女は、泣きながらゆっくりと男に向かってなにかを言い始める。が、何を言っているのかは聞き取れない。言葉になっていない。が、男はその様子を見て、さらに抱きかかえるような抱きしめるような感じになる。かろうじて「・・・悪いとこ、悪いとこ、全部なおすから・・・」というような女の声が聞こえる。男に懇願するような声。男はなんにも悪くないじゃん、と言いながら泣きながらさらに強く女を抱きしめる。俺が全部悪いからとも言う。(画面は引きへ)二人は玄関に立ったまま抱き合っている。女はさらに大きな声で泣く。暗転し、エンドロール。



●1:廊下で女が誰かに向かって話している内容(近所の公園の桜について、後で見に行こうよということ)だけを聞く分には何もそこにいる二人の間に齟齬はないようにも聞こえるのですが、その後の男の態度(一人で入って来てドアが閉まること)によって、それは一変して、二人の間には何かが起きているのだと言うことが分かります。このような会話が、廊下で初めてなされたのか、帰ってくる間中なされていて、それでもまだ続いているのか、というようなことは、ここだけではわかりません。
 男が一人部屋に入って来た後、閉まったドアを再び開けて女が入って来てからの態度は、基本的に相手に対して慎重になっているのか伺っているのか、非常にゆっくりとしていて、男の機嫌や態度を敏感に感じ取っているように見えます。そのことから先程の桜についてのセリフは、男の態度や気持ちを敏感に感じながら、気分や空気を変える為の言葉として発したのかもしれないとも思いつつ(もちろんまったくそんなこととは関係なく出て来た言葉であるともこの時点では考えられます)、同時に、先程のセリフに対する男のこの行動によって初めて女は男の機嫌の悪さを知ったのかもしれないということもあり得るなとも思わされます。どちらにせよ、男のドアを通した行動によって、女は何かしらを感じ取ったように見えます。
 しかし、その後の卵焼きのセリフやビールについてのセリフによって、女は花見に行くということを既に決まったこととして語っているようにも聞こえてきます。なぜ女は、男の素っ気ない態度にも構わず、花見に行くことを既に決まったようなこととして話せるのでしょうか?女の慎重な動きや、男に対して少し怯えたような伺うような口調とは裏腹に、相手のことや反応を聞いたり見たりするよりも前に、花見に行くという考えを決定している感じが、なにか奇妙な印象を生んでいます。相手が怒っているのが分かっていないのであれば、そのように一人でテンションを上げていくこともできるのではないかと思いつつ、男がなにかに苛立っているのだと、女は既に気付いているように動きや表情からは感じ取れるのに、言葉からは感じ取れないというズレが、この女のわからなさのようなもの(ある種の怖さのようなもの)を生み出しているように思いました。(冒頭の、男が女を無視して部屋に入って来てドアが一回閉まるという出来事は、あまりにも男の不機嫌さを感じるには十分すぎるほどの出来事なので、そのことに気付かないという風には見えません。逆に気付かないという風に見えてしまっても、この出来事でも相手の感情を推し量れない女の意識・感覚のわからなさは強調されていくように思います。)
 もしかしたら、花見に行こうよというのは、先程廊下で初めて話したことなのではなくて、事前に約束されていたことなのかもしれないと考えれば女の行動も納得がいくかもしれないと思いつつ、しかしもしそうなのだとしたら、公園の桜の綺麗さに初めて言及したような、最初の廊下での言葉が、どこかよそよそしすぎるのではないかとも思えます。ということは、そもそもの最初の桜を見に行こうよという言葉は、相手の気持ちを変えようとするような意識の先に出てきた言葉ではやっぱりないのかもしれないとも、事後的に思えてきます。

 特にこの作品の冒頭では、女の体の動きや話し方の慎重さとそこで話される言葉の内容とが、完全に乖離してしまっているように自分には感じられました。もし、ドアが一度閉まらなければ男の不機嫌さを感じる大きな要素が減るのでそのようには見えなかったかもしれないし、女の動きがここまで慎重さを感じるようにゆっくりでなければこうは見えなかったかもしれないし、女の動きがそのままでもセリフがもう少し相手に尋ねるようなものであればそうは感じなかったかもしれないし、逆に男が女の言葉に敏感に言い返していればそれ自体がちゃんと問題として顕在化したかもしれないし、などと考えてしまいましたが、同時に、このような女性を描いているのだともいえるでしょう(※1)。もしかしたら男の方も、こういった女の態度に対してなにかしら心に抱えていることがあるのかもしれないとさえ、思ってしまいました。

●2:「ごめんね、今日仕事場に迎えに行ったのマズかったかな。」というセリフについて。このセリフがあることとそれが発せられるタイミングによって(もちろんセリフが単体で機能しているのではなく、その前後の男の態度や反応、女の態度なども関係していることは言うまでもありませんが。)、二人がどのようにして今日この部屋に帰って来たのか、あるいは今までどのような関係で二人は過ごして来たのかという、今日以外のことについても、(つまりは映画が始まる前のことについて)色々な次元で想像できるようになっていると思います。そこで感じ取れることの多様さが、単なる状況説明のセリフとは異なった働きをしていると考えられます。
 また、●1に対して、初めて女の方が、自分の行動について自分で振り返っている部分でもあり、初めて男の方も女の言葉にちゃんとした言葉で反応を示す箇所になります。この時の互いの反応のし合いの中で、男はつり合ってないしというような二人の立場(生活や労働や金銭)に対する意識を表明しますが、自分には、このことが直接の原因になって、迎えにくることがおかしいと言っているようには聞こえませんでした。(そもそも二人の容姿や服装からは男が言うほどの差を感じないことがその原因かもしれませんが。)自分には、男の不機嫌さや苛立ちの原因・二人の関係の齟齬の根底にあるのは、二人の立場上の違いではなくて、女が男の仕事場に迎えにいったことそのもの(つまりは相手がどう思うかを考えられずに行動してしまうことそのもの)なのではないかと、男もそのことに苛ついているのではないかと、※1のことを補強していくようなセリフに聞こえました。
 全編を通して、どんな状況であっても女がゆっくりゆっくりと動くことによって生じる何を考えているのかのわからなさは、見ている側だけではなくて、登場人物にとっても共有されたものであることがその後の男の「お前が何考えてるかわかんねえよ」というセリフからも感じられます。

●3:女のゆっくりとした動きは、女の感じたり考えたりしていることの分からなさを生んでいるかもしれないと同時に、例えば、女が雨の中帰って来る場面の、ドアだけが映りなかなか人が入ってこない画面をよりスリリングなものにしているとも考えられます。女の動きに感じていたテンポがあるからこそ、誰も映っていないが開いているドアに対して、その向こうに確かに女の存在を感じ取ることができるのだとも考えられます。

●4:雨が降ることと、花に雨が当たっている映像について。この作品において、女が出て行った後に雨が降ることと、男が女のコートを握りしめていることとがあいまって、男の意識だけではなくて、見ている側の意識も部屋の外に向きやすくなっているのではないかと感じました。外に出て行った女を直接的に撮ったり描くことをしなくても、このアパートが含まれている世界の方の状況を変えることによって、部屋の中にいる男のことだけではなく、部屋の外にいる女のことにも意識がいきやすくなっているのだと思います。そのことは、部屋のすぐ外の植木鉢の花が雨に打たれる、というような、部屋の外と内との間のものが描かれることによってもさらにその効果を強めていると考えられます。
 

講評のようなもの C

 投稿者:川部  投稿日:2010年 6月12日(土)16時45分7秒
返信・引用
   これから書くことは、作品を見ながら感じ考えたことを、なるべくまずはその時系列に沿って、その順番で並べながら、しかし同時間的に生まれた複数の考えの道すじや感じ方の在処を、なるべくその都度記述しようと試みたものです。決して、映像の連なりを論理的に意味づけていくことを目的にしているわけではありません。その中で、いくつか特に気になった点については、●を記して、最後に別途書くことにしました。全体的に括弧の多い読み難い文章になってしまいましたし、あまりにもだらだらと長くなってしまっている感もありますが、それも上記のことを試みた結果ですので、どうかご了承ください。


◆C班『やさしいきいろ』

 誰もいない部屋。散らかっている。カーテンが閉まっていて少し暗い。夕方なのかもしれない、とも思う。足音が聞こえてきて、画面は廊下へ。スーツを着た男と黄色いカーディガンを着た女がドアの前に立っている。近くを車が通る音。男と女は順番に玄関に入る。「お邪魔します」という女のことば。ここは男の家のようだ。男は勢いよく居間の方へ上がっていき、鞄を畳に放り投げる。上着も脱ぎ捨て、何か服を持ってトイレに入る。それらの動作からこの男がなにか苛立っているのを感じる。(女が家に入ってくることにはそれほど特別な注意を向けていない感じから、女がこの家に来ることはそんなに珍しいことではない感じを受けるが、あるいは珍しいことなのだが、それよりも苛立ちの方に意識が行っているだけなのかもしれないとも思う。)仕事帰りなのだろうか、職探しでもしに行っていたのか、それとも何かスーツを着なければならない用事の帰りなのだろうか。女も一緒だったのか、この家に来るところで合流したのかはわからない。女はトイレに入った男のことをちょっと気にかけつつ、居間の中を見る。

 女は居間に入るとバッグを居間の何かの台らしきものの上に置いて(そこにバッグを置くことが習慣のようにも見える。)、すぐに、散らかった部屋のゴミを片づけ始める。食べ物のゴミと脱ぎ捨てた洋服や、色々なものが混在している。(ふと、画面左手にイーゼルに立て掛けられた絵があることに気付く。同様に部屋のあちこちにキャンバスやクロッキー帳なども見えている。絵そのものは裏になっていて見えないが、男は絵を描く人のようだ。●2)ゴミを片づける途中で、落ちていたスーツの上着を拾いあげ、ハンガーにかける女。その手慣れた様子に、女が部屋に来てゴミを片づけたりするのはこれまでにも何度もあって、この二人が恋人同士の関係なのだということも理解できる。(部屋の散らかりようから前回に来てから結構経っているのか、あるいは男の散らかすスピードが早いのか、はよくわからない。)女は片づけながらふと絵に視線が止まり、少しの間見つめる、が、男がトイレから出てくる音で、絵から視線をはずす。男は部屋着に着替えたのか、スーツを手に持ち、服が変わっている。女が居間で絵を見ていたのに気付いたかもしれないと、トイレを出た瞬間の男の動きで思う。居間に戻るとスーツを女の前でまた投げ捨て、部屋の隅に出しっ放しになっている布団の上に横になる。女は、男の投げ捨てたスーツを何も言わずに拾い、またハンガーにかけてゆく。(そういえばどうして男はトイレで着替えたのだろう。水を流す音はなかったので単純に着替える為にトイレに入ったのだとしたら、脱いでいるところを女に見せないようにしたということか。それはどういう関係によって生まれる行為なのだろうか。)しばらくの沈黙のあと、女は男に、「まあ、あれだよね、なんていうか、しょうがない、気にしたって。しょうがいない。」と言う。男はそれには反応しないで、机の上に置いてある本を横になった体勢のまま手に取る。その後も男のことを励まそうと女は何か言おうとするが、男は大きな音をさせて本を閉じて、それを遮る。(なぜ、男は怒っているのだろうか。その理由を女は知っているようだ。)それでも女は「誰でもイヤなことあるって、ゆうくんだけじゃないよ。私なんて・・」と言ったところで、男(ゆうくん)は勢いよく起き上がり、「お前はいいよな、仕事楽だし、へらへらしてりゃなんとかなる。お前に俺の気持ちがわかんのか。」と怒鳴られる。(二人のセリフから、男にとってイヤなことがあったらしいことがわかり、それは男の仕事に関係しているらしいが、なぜその内容を女は知っているのか。男から聞いたのか、自分もその場に居合わせたのか。その出来事は今日起きたのだろうか。まだ太陽が出ているこの時間帯に二人で一緒に帰ってくるというのは、どのような経緯だったのだろう。定時に終るような仕事なのかも。とか、思う。扇風機が出ているがまだ夏ではなさそうな部屋。)男は言い終わるとまたふてくされたように横になる。少しの間女は考えていたが、また気を取り直したように、「そうだ、お腹すいたよね、卵焼きつくってあげるね。」と言って、(画面は窓側からの立てポジに変わる)台所に行き冷蔵庫から卵を取り出す。甘いのと普通のとどっちが良いかも聞く。台所の蛍光灯を点ける。返事がないので女は振り返り、優しい声でまたどっちか尋ねる。(迷いもなく卵焼きと言うし、冷蔵庫には当然のように卵が入っているし、手慣れた様子で台所の道具を使う感じからも、卵焼きは男にとって好物なのかもしれないし、よく女は卵焼きをつくってあげるのかもしれない。と思う。と同時に、しかし、甘いのか普通のか聞くというのは、どういうことなのだろう。両方好きだから作る時に毎回今日の気分を聞くのだろうか。あるいは、やっぱり色んな偶然から好物かどうかは関係なく卵焼きと言ってしまったのか。)男は顔を上げると、女と目が合ってしまい気まずそうに下を向いて「甘いの」と言う。その声のトーンは今までとまったく変わっている。(この二人にとって、あるいは男にとって、卵焼きの意味というか女が料理を作ってくれること自体というか、それらの行為はよほど大きな意味をもつのだろう。それによって、男の今までの態度を変わらせるほどで、男は少し反省しているようにも見える。●1)
 男は体を起こし、女の方を見る。視線を戻し、女に謝る。女は振り返らずにそのままの姿勢で、「いいよ、気にしていないし」と言うが、男はそれにすぐ反応し、「いや、違うんだよ。俺もうこんな自分やなんだよ」と返す。女「ゆうくんは今のままでいいよ」と言った言葉に、男は大きく体を女の方に乗り出しながら「ダメなんだよ、今のままじゃ!いつもお前に迷惑ばっかかけて」とも言うが女はもう一度、そんなことないしそのままでいいんだよと返す。女は男の言葉に反応はしているようだが、そのことに向き合って話すほど、そのことをちゃんと考えているようにも見えない。(画面はキャンバスごしの男のアップ)男は下を向いている。ふと絵の方を見ながら「仕事辞めてもか?」と言う。卵をかき混ぜていた女の手の音が止まる。(女の横顔のアップ)女は何かを考えているようだが振り返らず、何も答えない。女はコンロのつまみをいじった後(いつ火をつけたのかは分からないが、着火の音がしないので火加減を調節したように見える。)卵をフライパンに流し入れる。卵の焼ける音。(女が言う「今のままでいい」という言葉と、男の考えている「今のまま」という言葉の意味する方向は同じではないようだ。女が何も答えないというのは、仕事はやめてもらったら困るということか、あるいはそうは思っていなくても、そのような態度として男は受け取ってしまうのではないか、と思う。)(画面はキャンバスごしの男のアップ)男は女が答えずに卵を焼く姿を見て、下を向く。「マサコは俺の絵、どう思う?」と聞く(●3)。女(マサコ)は好きだと答えるが、それには表情を一切変えない男。(きっとこの言葉は聞きたいことじゃないのかもしれないし、もう何度も聞いてる言葉なのかもしれないと、思う。)「才能あると思う?」と別の聞き方をし、マサコが「それはわからない」と言うと、反応を示し、少し皮肉そうに笑いながら「結局みんなそう‥‥」と、小さな声でつぶやく。誰も本音で向き合わずうわべばっかりだと言って、愚痴のような文句のようなひとり言のような感じで、不満をつぶやいていく。声が小さいし、画面は男の方だけを映しているので、マサコに聞こえているのかは分からない。男が「そんなの嘘なんだよ」と言ったところで初めて、「嘘って」と台所からマサコの声が聞こえて来る。マサコにも男の声は聞こえていたようだ。(画面が男の右横からのバストショットに変わる)男は自分の絵に対する人の言葉のいい加減さを笑いながら自分には才能がないことは分かっていると言い、こんなものはゴミなんだと大きな声を出して、自分の左横に積んであった何かを倒す。と、マサコが画面右奥から飛び込んで来て、膝立ちになりながら「もうやめて!」と言う。(マサコは卵焼きを作りながらどんな風にして男の言葉を聞いていたのか。)マサコはそのままの格好で、他の人はどうかしらないが自分はあなたと向き合いたいと思っている、信じてと、訴えるように男に言う。(画面が引きになる)男はマサコの方を見る。二人は見つめ合う。男の顔はその言葉の真意を疑うような睨みつけるような感じになる。男が見つめたまま少し近づくと、マサコも同じだけしりぞく。マサコは少し怖がっているようにもみえる。男は瞬発的に勢いよくマサコに抱きつこうとするが、マサコはすばやく体を引き、敷居を越えて逃げる。男はすぐに止まる。下半身を引きずるように逃げた女は降り返り、ごめんと小さく謝り、急いで立ち上がり、バッグを取り部屋を出ていく。抱きつこうと身を乗り出したままの格好の男。(マサコとユウゾウの間での一連の動きには、単純に男の行為に女が嫌がったり怖がったり躊躇したりして逃げたという以上の機敏さを感じるし、男もその場でふと感情的に突発的に女を抱きしめようとするという行為以上の動作の溜めを感じる。というよりも、マサコの動作にはユウゾウがこれからどういう動作をしようと考えているかを知っているようにも見えるし、ユウゾウの方にはマサコが自分の次の動作を警戒していることを知っているようにも見える。ということは、この時、二人は今起きていることだけではなくて、何かこれまでの自分たちの関係の中での共通の体験と照らし合わせているような時間の間としても、この見つめ合いがあるように感じる。そういえば、冒頭に男がトイレで着替えたというのは、マサコの前では服を脱いでいるところは見せられないという気遣いのようでもあったし、そのことと、ここの動きも関係しているのかもしれない。と感じる。しかし、今までに二人の間でどのような出来事があったのかという具体的なことは、二人のここまでの言葉からも動作からもほとんと読み取れない。)男は布団に戻り、床をたたく。しばらくして、天井を見つめ「言ったろ、全部嘘だって」というセリフ。(これは、マサコが信じてと言ったにも関わらず逃げたことを指すのだろうか。マサコへの言葉というよりは自分自身の行為に対しての後悔を感じる。)男はしばらくそのまま横になっている。(画面が引きになる)男は起き上がる。部屋の片付けを始める。立ち上がり動き始めると、部屋着のスウェットの裾を、片方だけふくらはぎまで上げているのに初めて気付く。服を片づけ始める男。帰って来て脱ぎ捨てたYシャツを手に取ったところで、何かを思ったように動きが止まり、服をその場に落として玄関の方へ行こうとするが、すぐに立ち止まる。壁をたたく。(服をキッカケに、マサコのことを追いかけようと思ったのかもしれない)また、布団の上へ。何かを考えこんだような顔。

 画面が変わり、台所側から冷蔵庫越しの男の様子。男は立ち上がり、台所の方へ歩いてきて冷蔵庫のドアを開けたところで、何かに気付いたように流しの方へ顔を向ける。画面は流し台の上、皿にのった卵焼き。(先程、マサコが男の言葉を遮るように飛び込んで来た時には、既に卵焼きはできていたのだということが事後的に分かる。ということは、あの時、マサコは卵焼きを作った後、完成したことを男に言えないまま男の話を聞いていたのかもしれないし、卵焼きを作り終わったところでちょうど男の苛立ちが頂点に達したので、タイミングよく走りよったのかもしれない。とか思う。)画面に男の手が入って来て、皿を手に持ち、コップにささっている箸を抜き取り食べ始める顔へ。何口か食べながら、だんだん顔が崩れ、流しに体をもたれかけるようにうなだれていく。箸を流しの中へ落とす音。(画面が立てポジの引きへ)男が流し台に寄り掛かりながら膝立ちになって、頭を抱える後ろ姿が見えている。嗚咽が聞こえる。しばらく男の泣き声が小さく断続的につづく。しばらくすると、台所のところにある窓に人影が映り、誰かが廊下にやって来たことが分かる。と、ドアが勢いよく開きマサコが玄関に入ってくる。そこで、マサコは流しの前にいる男を見つけたからか、立ち止まる。少しの間を置いて、何かを振り切るように三和土から走って居間にあがり、男に背を向けたまま黄色いカーディガンを脱ぎ捨てる。次に服のボタンを外しだしたところで、後ろで見ていた男が止めに入り、後ろから肩越しにマサコを抱きしめる。「ごめん、ごめん」と男は何度も泣きながらごめんを連呼する。二人は泣いている。しばらくしてふと呼吸に間が開き、男がマサコの後ろから何かをささやく。何を言ったかは聞き取れないが、マサコがうなずいたように見える。(画面が横ポジの引きへ)数秒して黒にフェードアウト。『やさしいきいろ』というタイトル字幕。

 エンドロールの後、また男の部屋が映る。誰も画面には映っていないが、ドアが開き、人が出て行く音が聞こえてくる。部屋のカーテンは開いていて、光が差し込んでいる。扇風機や炊飯ジャーが印象的に見えている。(まだ/もう夏ではないが、まだ日が長い季節なのかもしれない。)ドアが閉まる音。暗転。




●1:この作品にとって、卵焼きはどのような機能を果たしているでしょうか。まず、原作脚本でバッグからこぼれ落ちたクマが果たした機能と似た部分があるように思います。それは主に、マサコが出て行った後、ユウゾウが一人で部屋に残された時に、クマ(卵焼き)を見つける(見つけて食べる)ことでマサコへの心情や思いを改めたり、あるいは自分の行為に対する後悔の念を強めたりするものとして登場するという側面に関してです。目の前に相手がいない状況で、相手に対する心情の変化が起こったことを示す構造としては同様の機能を果たしているように感じました。そのことによって、マサコが帰って来てからのユウゾウの行動の発生に、見ている者が感情をのせていくことができるのだと考えられます。(マサコの心情の変化がどのように起きたのかは原作でも具体的には示されていません。そのことは服を脱ぐ動作の中で、事後的に醸し出される程度です。)
 しかし、原作ではクマが登場するのはマサコが出て行った後からで、その時に初めて登場人物の感情や行動を変化させるものとして現れますが、この作品での卵焼きは、卵焼きを女が作ろうかと提案するところで早くも二人の行動や感情に影響を与えるものとして登場しています。このことは、登場人物にとっても見ている側にとっても、そこで発生する二人の関係性に対する思いを、クマの見た目に負わせていたやり方とは異なり、卵焼きの見た目だけではなくて、そこに関する二人のやり取り全ての描き方と関係を持つことになったように思われます。このことはどのような出来事を生んでいるのでしょうか。
 具体的にはまず、卵焼きのやり取りに関して、「甘いの」と答える部分。部屋に帰って来た時のユウゾウのテンションががらっと変わるほどの「なにか」としてこの卵焼きが、あるいは「甘いのと普通のとどっちがいい?」という質問があるように、ユウゾウの演技から感じられました。そして、そこで生まれたテンションは、その後、ユウゾウが「仕事辞めてもか?」という質問にマサコが答えなかった時、あるいは「才能あると思う?」という質問に「それは私には分からない」と答えた時に、あっという間に元にもどる(別の次元に移行する)ように感じられます。このことはとても重要な気がしていて、ここにユウゾウの問題意識というか、最初の苛立ちを生み出している日々の思いというか、この作品の中でのユウゾウのテンションを作り出す根底の動機のような存在の在処がなんとなく感じられるのですが、作品全編を通して、この部分にちゃんと触れたと思わせられるような言葉や行動は、何か一般化された言葉や動きによって最後まで見ることができなかったなあという風に思ってしまいました。(例えば、「それは私にはわからない」と言ったマサコに対し、「結局みんなそう」とユウゾウが言う時の、「みんな」とはどこにいる誰のことなのでしょうか?その「みんな」の中にマサコも入っていて、みんなへの苛立ちや諦めを表す言葉なのか、みんなと同じことしか言わないマサコへ苛立ちを訴えるための言葉なのか、によってもその言葉は大きく異なるように思います。)
 そして同時に、卵焼きを作りながらユウゾウの話を聞いているマサコの描写によって、マサコの側の、今ここにいるテンションを見ることもできるはずで、そのことによって逆にユウゾウのテンションを作り出す根底の動機のような存在の在処を、補完することもできるはずなのではないかとも思いました。ただこの時画面はユウゾウを映していることが多いため、マサコがどのようにユウゾウのひとり言のような言葉を聞き、それに対してどんな風にしているのかということは、料理をする音や、たまに答える声によって想像していくことになります。このこと自体(マサコが画面に映っていないということ)は悪いことではありませんが、その時のマサコの動きが発する音の扱いが、単に静かに作っているという状況以上のことを生みだしていないように思われます。(例えば、現状では、卵をかき混ぜる音と、卵が焼ける音しか聞こえてきません。皿はどうしたのか、いつ卵焼きが完成してフライパンを置いたのか、その時のちょっとした感情の現れによっても動きは変わりますし、音は変わります。ユウゾウのところに飛び込んでくる前に、いつ火を消したのか、どのように消したのかという音もないことによって、ユウゾウの言葉を聞きながらマサコがどうしているのかという動きや意識を想像する場所が奪われているようにも感じられます。)どのようにマサコが動いているのかという一つ一つの音が、そこにいるマサコを形作り、そこで動いているマサコを意識しながら話すユウゾウを形作り、マサコがユウゾウの家の台所で料理をすることそのものから想像される、これまでのマサコとユウゾウの関係、を作りだすようにも思うのです。
 このことは●3の、そもそも絵の話をするタイミングそのものとも関係が深いと思います。卵焼きを作ると言ったマサコの行動が、ユウゾウのある種の反省を生み出し、そのことによってその後のユウゾウの告白や問いかけが生じることは順序としてあることは確かに理解できます。ただ、マサコは男の問いかけに対し、片手間に話すのか、それともうまく話せないことが、卵焼きを作るという行為があることによって話せるのか。それともこういうことを話すことは二人にとってもう普通のことなのか。今日初めてユウゾウはマサコに自分の絵のことを聞くのか。あるいは、いつもなんとなくうやむやにしてきたことが、この家に帰ってくる前に起きたなんらかの出来事によって、今日初めて話されることになったのかによっても、卵焼きの作り方(その時のマサコの動き方)は変わってくるだろうと考えられます。最後にユウゾウが卵焼きを食べるために、単に卵焼きが出来上がっている必要があるという説明のために卵焼きを作る動きがあるわけではないはずで、卵焼きを作ることと、絵のことを話すことの影響のし合いを感じることが、二人の関係性を見つめていくことになり得るのではないかと、思いました。

 ●2:部屋の美術について。物量や、そこに置いてある物の種類や系統が、ある種の生活感やそこで生きる人物像を作り出しているようには思います。しかし、絵に関して、例えば今も描いているのか、描いていないのか、描いているのだとしたらどんな生活リズムで描いているのか、描いていないのだとしたらどのくらい描いていないのか、といったようなことが、部屋の様子やそこでの男の振る舞いから少しでも想像することができたら、男が抱えている思いについて、より意識を集中させていくことができるようにも思います。現状では、男は絵を描いているが、あまり集中できているわけではなさそうだという程度のことを、部屋の散らかり具合や、ゴミと物と服の混ざってしまっている様子から自分は想像しました。絵と、生活と、マサコへの思いとが、どのように絡み合っているのかということが、ここでのユウゾウの行動とマサコの反応を支えていくのだと考えれば、空間の具体的な描き方(美術)の中でも、この作品の登場人物が根底に持っている感覚そのものを示すことができたのかもしれません。
 

講評のようなもの B

 投稿者:川部  投稿日:2010年 6月12日(土)14時59分24秒
返信・引用
   これから書くことは、作品を見ながら感じ考えたことを、なるべくまずはその時系列に沿って、その順番で並べながら、しかし同時間的に生まれた複数の考えの道すじや感じ方の在処を、なるべくその都度記述しようと試みたものです。決して、映像の連なりを論理的に意味づけていくことを目的にしているわけではありません。その中で、いくつか特に気になった点については、●を記して、最後に別途書くことにしました。全体的に括弧の多い読み難い文章になってしまいましたし、あまりにもだらだらと長くなってしまっている感もありますが、それも上記のことを試みた結果ですので、どうかご了承ください。


◆B班『笠の下』

 タイトルの字幕の後、黒みに重なるように足音が聞こえてくる。古いアパートの廊下、ドアの前に歩いて来て立ち止まる男女。男は紺色の三本線のジャージ、女はトレンチコートを着ているのが分かる。小型飛行機の飛ぶ音も聞こえている。男が女の方をちらりと見て、何かを決心したようにドアの鍵をポケットから取り出す。画面はどこかの薄暗い部屋の中に移り、すぐに部屋を右に平行移動してゆく。窓の外は薄暗い空。誰もいない部屋につづいて台所が映る。流しの横のドアが開き、カメラがよりに変わると先程の廊下に立っていた男が入ってくる。ドアを開け放したまま、鍵を流し台に置いて、水道で手を洗い始める。それを三和土に立ったまま見つめる女。どんな表情で見つめているのかは暗くてよく見えない。(なぜそこに立ち止まっているのだろう。何か、すぐに入れない理由があるように思う。それはこの部屋に対するものというよりは、単純に男の機嫌を伺うような感じか。男が連れて来たとか二人で一緒に帰って来たというよりは、女が勝手について来たのかもしれない。)

 洗い終わると男は居間に行き、(画面も居間の横ポジへ)押入のプラスチックの衣類ケースからすばやく何かの布を取り出し、出しっ放しにしてある布団の上に座り込む。開けたままの押入。男はその布を裂く(裂ける感じから手ぬぐいのようだと思う)。玄関のドアが閉まる音がする。(女がどのようにして部屋にあがることを決めたのか?、は画面には映っていない。)男が右手に布を巻こうとすると、女が勢いよく居間に入って来て、バッグを置き、男に手を貸そうとする。(ひょっとしてこのために入って来たのかもしれないし、入って来たらその動きが見えたので反射的に駆け寄っただけかもしれない。)それを拒むように、窓の方に体の向きを変える男。男は左手と口を使って手ぬぐいを右手に巻く。男は手にケガをしているのかもしれないが、あまり痛くなさそうではある。と同時に、止血のためか包帯代わりに布を巻くくらいだからやっぱり結構なケガなのかもしれないとも思う。(そんな風に手当のためにすぐに使える布が衣類ケースに入っていたり、迷いもなくすぐに裂いたりできるというのは職業柄なのだろうかとか、そのケースは衣類ケースではなくて、いつもタオルや手ぬぐいを入れているケースで、男は咄嗟にそれを使うことにしたのか、とか思う。また同時に、男が片手で手ぬぐいを広げる動きや、それを裂く動きといった仕草に過剰さを感じ、女にケガの手当をする様子を敢えて大袈裟に見せつけているのかもしれないとも思いつつ、そんな動機とは関係なくそういう大袈裟な動きをする男なのかもしれないし、苛ついているだけなのかもしれないとも思う。)女は膝建ちのまま、その様子を後ろから見ている。部屋は窓から入ってくる光に照らされているが少し薄暗く二人の顔は影になっている。外からは断続的に車やバイクが通り過ぎる音が聞こえている。居間のちゃぶ台の上にはヤカンが光を反射して見えている。しばらく動きもあまりなく無言のまま時間が流れるが、女がふと立ち上がり、男の背後から少し距離をとって座りなおす。コートは着たままの女。(男の顔の角度が変わり光があたり、女の姿もうっすらと見えるようになる。女の反応からは、男の態度がいつもと比べてどのようなものなのかはよく分からないが、コートを着たままの姿から、この部屋に対する女のよそよそしさや慣れていない感じを受ける。)俯いたまま窓の方へ体を向けている男のことを見ていた女は、伺うように「どうしたの」と言う。その声は、男の沈んだ気持ちの理由がよくわからないという風にも聞こえる。(その気持ちの原因について、手のケガのことと関係ないのか、あるのか、女はそもそも知っているのだろうか。)「私こんな風にして別れるのいや」「こんな気持ちじゃ帰れないよ」「また次の日曜日まで会えないのに」、しかし男は黙ったままだ。二人はどこかに出かけていたらしいことが分かる。なにがあったんだろう。男が答えないので、女は、男が少し下を向いて右腕をさするような動きを捕まえるように、腕のことを心配しながら男の後ろに再度近づく。が、男は腕が痛いわけじゃないと言う。(痛いのは腕じゃなくて手だって知ってるだろということかもしれないし、もっと別の何かが痛いということなのかもしれないが、女の問いに対して具体的に答えない感じは、理由をわからない女を攻めているようにも聞こえるし、男の声のトーンは落ち着いていて何にむけての言葉なのかよく分からない)男は何を考えているのだろうか。あるいは、どんなことがあって、二人はこの部屋に帰って来たのだろうか。空気を変えようと、女はお茶を入れようとかお菓子を買ってこようとか提案するが、男は無下にいらないと言う。女のアップ、行動を追うカメラ。どうすればいいのか分からず困った顔の女は、また座りながらどうすればいいの?と聞く。女の行動に対して、冷たい反応をすることで男が女を攻めているようにも見える。男のアップになる。男はいつの間にか女の方を向いている。「そろそろ愛想がつきたろう」「野良犬だよ、俺は。」というセリフ。惨めな自分がイヤになったという。男の行動は、自分自身に対する怒りや不甲斐なさのようなものの現れということなのかもしれない。それを、こんな形で表にだせるというのは、女に対する甘えもあるのかもしれない。「誰だって今は惨めだわ、こうゆう世の中では」と答える女に対し、自分は惨め過ぎるという男、こんな有様では先のことなど考えられないとも言う。(現代だと思われるこの世界の中で、どんな風な生活を送っている二人なのか。●1)女の言葉はなにを根拠に発せられていて、それがどのように男の気持ちを慰めたり勇気づけたりすると思っているのだろうか。カメラがひき、二人が映る。ちゃぶ台の上には漫画雑誌がのっているのが見える。男は自分の感情の独白を続けるが、なにも具体的な思考対象(それがこの家に帰って来る前の出来事についてなのか、普段の生活のことなのか、普段の生活のことであればどういった現状であるのか、逆にそれが女にとってはどういうことなのかなど)はわからない。誰もみんな背中を向けるんだ、という言葉などのあとで、女に近づき、「僕には君だけなんだぜ、暖かいものは」と詰め寄る。(なんだか何か問題のある現状の具体的なことは話さず、抽象的なことで周りに問題転換をしてるような発言にも聞こえる。が、女にはそのようには聞こえていないようだ。)その言葉を聞いていた女が何かに心打たれたように顔を上げ、男と目を合わせる。「まあちゃん」と勢いよく両肩を掴む男。びっくりしたのか、すっと体を避ける女の行動。それに反応するように、男はふと立ち上がり玄関の方へ。女は一瞬目をふせ、自分の行為に対して、悪いことをしてしまったというような感じにも見える。

 男は玄関のドアにチェーンをかける。(しかし、なぜチェーンなのか・・・、先程肩を掴んだ時にすっと体を引かれた女の行為から、女に拒まれそうな予感がして、逃げられないようにしたかったのだろうか?、それとも、何かの理由があるのだろうか。●2)女は、なんだかわからないけれどチェーンをかけられることの恐怖からなのか、男が求めようとしている行為についての拒否としてなのか、玄関に走りより止めに入る。が、男は女の手を取り、押さえつけるように体ごと居間の方まで女を連れて行く。「なに」という女の言葉に一瞬止まるが、次の瞬間畳の上に押し倒す。「イヤだ」という女の抵抗。少しの間もつれるが、女の抵抗の強さにすぐ立ち上がる男。「お嬢さんなんだな、いつまでも」という男の言葉。女はしばらく放心しているが、「帰る、あたし」と怯えるような困惑したような声で言い部屋を出て行く。一連の二人の行動の中で、女の戸惑いのような言葉や声の感じから、二人の間にこんなことが起きたのは初めてのように思える。ドアの閉まる音。(カメラは廊下で立ち止まる女に切り替わる。)何が起きたのかというような感じで、考え込んでいるような女の様子。少し息が荒く乱れている。部屋の中から何かを叩いたような物音がし、それに怯えるように慌てて廊下をあとにする女。(●3)

 居間で立ったままの男。畳の上に置いてあった何かを蹴飛ばすと(女のバッグか?)ちゃぶ台の上のヤカンから立ったまま水を飲み、勢いよく畳の上に大の字に仰向けで寝転ぶ。大きく息をしているが、だんだんと落ち着いてくる様子。しばらくすると、画面は窓の外の枯れた鉢植え越しに部屋の外の風景に変わる。鉢植えの中に植わったままになっている枯れたらしい何かの葉っぱが揺れている。ここはアパートの二階で、外はすぐ住宅街になっていて、奥に向かっていくつもの鉄塔が続いている様子も見えている。男の横顔のアップ。男は天井を見つめていたが、急に立ち上がり、ドアに向かって走りよる。把手を掴み開けようとするが、そこで止まってしまう。(男のどのような感情がここまでの間に生成していったのか。)諦めたように居間の方に戻りつつ、(画面は窓方向からの縦ポジへ)壁によりかかる。男はそこで居間の方を向きながら、ふと突っ立ったままになる。その姿は暗くて何をしているのかよくわからないが、居間の布団の方へ歩き出し、布団の上でしゃがみ込み何かを手に取ったところで、これを見ていたのだと気付く。何を手に持っているのか、どんな表情でそれを見ているのかは暗さと角度の関係でよく見えないが、その後、先程蹴飛ばしたものらしき鞄にそれをしまうところが見えるので、女の持っていた何かなのかもしれない、と思う。男がその鞄をちゃぶ台の上に置いたところで、玄関のドアが開く。そちらを見る男。女が入ってくる。(カメラは居間の横ポジへ)

 どんな表情かはわからないが膝立ちのままじっと女の方を見ている男。居間へ女が入ってくると、男のすぐ前に立ち、すぐにコートのボタンを外し始める。コートを脱ぐ瞬間に、男は「まあちゃん?」と女の行為を止めに入る。「ばかだな、わかったよ、いいんだよ」と立ち上がり、それでもしばらく動きを続けようとして放心している女に向かっていいんだよと抱きしめる。泣き始める女。男の胸に顔を埋め泣く女。「わかったよ、お前の気持ち」といって、ありがとうと言う男。男は体を離しコートを着させるが、それでもしばらく泣き止まない女を前にして、泣くなよ、馬鹿だなあと言いながら窓の前に行き(カメラが男のよりに変わる)、窓を開ける。外に顔を向けたまま、息を吸い、もう一度街へ出て、お茶でも飲もうよと明るく言う。(カメラ部屋の引きに変わる)女はそれでも泣き続けている。男はまだ外に顔を向けたまま。部屋の真中に電気の照明の笠が見えている。暗転。




●1:部屋に入る前に男が女のことをチラッと見ること、女が部屋に入るかどうするか躊躇していること、男がそれを意識しつつ直接声はかけないこと、男のケガについてケガへの直接的な心配以外にお互いその経緯については話さないこと、女がコートを脱がないこと、男が自分からは現状の二人の雰囲気を変えようとしないこと、女がこんな気分では帰れないと言ったり感じたりしていること、また次の日曜日まで会えないらしいこと、男が自分の感情をまるで初めて女に話すように吐露すること、女はそれに答えるように誰だって今の世の中では惨めだと男に言うこと・・・・etc、これらすべては、この映像が始まる前からの二人の関係性(普段どのように生きているのかということ)や、この日どのようにしてこの家に帰ってくることになり、今どんな気持ちをそれぞれ抱えているのかということや、さらにはそれぞれこれからどうしていきたいと思っているのかというような、それぞれの思考や感覚や感情の動きの中で、お互いが感じ合って生み出されている動きなのであると、自分は考えます。そして同時に、二人のそれらの動きの前提を支えるもとしては二人の言葉や行為だけではなくて、二人の服装、部屋の様子、男の持ち物のこと、外からの音のこと、部屋での二人の立ち位置(座り位置)など、そこに映り込んだり聞こえて来たりするものの全てが関与しているだろうとも考えます。
 では、上記のように作品の冒頭から描かれるいくつもの二人の行動や、その行動を支えるものとして示されたいくつもの要素は、どのように機能し、一体二人のどんな関係性を描いているのでしょうか?一つ一つの行動に対して、一つ一つ登場人物にとっての意味を確定させていくようなことは不毛なことなのでしませんが、(なぜなら、我々は非常に複雑な感情や関係性の中で生きているので、思っていても違うことをしてしまったり、一つの行動にいくつもの意味があったり、無意識に動いてしまったり、ある動きやセリフの意味とは反対の行動や意味を伝えようとしてそのセリフや動きをしていたりすることもあるからです。)、ここで自分が書きたいと思っていることは、二人の多くの行動が、特に認識上の齟齬や乖離はなく(感情の上での齟齬はあるが)、二人にとってだけはある共通の了解のもとで進行していくように感じられた点についてです。その時、二人にとっての共通の認識事項に対し、自分はそれを自分自身にとって共通の認識だとは思えなかったこと、というか、見ている自分にとって二人の関係性の中で発生する感覚へアクセスする入口がどこにあるのかよくわからなかったという感じについて書きたいのかもしれません。特に自分にとっては、女の(本当に思っているのかどうかは別にして)「誰だって今は惨めだわ、こんな世の中では」というセリフが、まったく理解できませんでした。この現代の社会の中で、「誰だって」、とは誰のことを指しているのでしょうか。その中に含まれない人は本当にいないのでしょうか。あるいは、この「誰だって」とは、二人の関係の中で身近にいる人のことを指しているのでしょうか。だとすれば、この二人にとって、その一部の誰か達をここで話題にすることはどのようなことなのでしょうか。
 何かとても大きな社会的・外的な要因が、自分たちの生活や生き方に影響を与え、それは自分たちだけではなく、今を生きている全ての人にとって共通のことであるから、自分たちもその中の一人であるのだ、というような感覚が仮にあるのだとすれば、この女性にとってそんな感覚にさせている生活・社会、それを聞いてもそれでも自分は惨め過ぎると言う男の感覚はどこからくるのでしょうか。というより、どこからきていると、映像を見ている我々は認識できるのでしょうか。
 行動やセリフから見た二人の関係性、服装や部屋の内装や窓外の風景、環境音からわかる状況設定や時代設定から、それらがどのように描かれているかによって、初めて、二人がどのような現状を生き、そこになんらかの葛藤を抱えたり抱えなかったりしながら今この部屋にいて、二人が色々なことを感じながら相対していて、この言葉が発生するのだということが示されるのだと考えられます。しかし、ここではそれらの要素(行動やセリフ、環境など)一つ一つが表面上は繋がって見えているのに(登場人物二人にとってはそのことが常に問題にされていないためだと考えられます。)、根底のところで、どのような人間かということについては、自分は映像の中で描かれていることに、自分なりの感覚の入口を見つけられなかったように思っています。
 ほぼ原作の脚本通りの動きとセリフではありますが、現状では、それが現代の状況の中でそのまま演じられている印象が強く、人物にどのような内的な葛藤が、この世界の中で影響を与えられながら発生してきているのかが、見えなくなってしまっているように感じられました。戦後すぐに書かれたこの脚本に対し、設定を現代に置き換えた時、この物語を自分たちの物語にするという根拠において、セリフ自体はどのように発せられるべきなのか、あるいは変えられるべきなのか、通じるところはどこなのか、ということについて、もっと詰められても良かったのかもしれないとも思います。

●2:なぜチェ-ンなのか。原作の鍵の変わりにチェーンが代用されているのだとしても、再び帰って来る女のコートを脱ぐくだりで、女がコートのボタンを外すところを見てすぐに優しく止めにはいる男の行為の早さとその時のセリフの柔らかさがあることによって、事後的にチェーンをかけるという行為じたいも単に女のことを試すための動きだったようにも見えてきてしまいました。男が女に感情を独白する部分や、女を求める行為の部分の深刻さや突発的な感じと、女が帰って来てからの男の行為の準備していたような優しさや軽さの部分とが大きく分離しているように感じられました。その原因の一つはもしかすると、女が出て行った後の男一人の場面の描き方にあるように思われます。
 女のことを追いかけようとドアまで行く部分も、その前の実景が長いことで、ある程度時間が経過してなぜその瞬間に追いかけようとしたのかは見て取れません。(実景の長さによって外へ出て行った女への意識は生まれたように思いますが。)また、女のバッグの中身の何かを発見したらしい男がそれを見て、女に対してどのように思いを変化させたのか、ということも、そもそも何を拾ったのかということが見ている側には示されないので、そこで男に生成される感覚について、どこか取り残されていくような感覚がありました。これらが示されることで、見ている側にとっては帰って来てからの男の反応が変化し得ることを理解できたように思うのです。

●3:実景の外の暗い青さと、廊下側の夕日なのか暗い赤さとの対比が、なにか見ている側や登場人物に不安定な心境を作り出している部分はあるように思いますが、どこかそれは単なる雰囲気としてしか機能していないように思われることが残念です。また、部屋の中の照明に関して、光が外から差し込み部分的に明るくなっていることが、場面によっては(二人のそれぞれのアップや女が一旦男から距離をとるところなど)非常に効果的に二人の薄暗い中での会話の感じ合いを描いているのですが、肝心なところで全部が影に落ちてしまって、二人の感じ合いが観客を除く二人だけのものになってしまっている部分があったことも、見ていく感覚が繋がっているようでいて、どこか分からない部分をとりあえず保留にしていく感覚が常につきまとっている状態を生んでいたようにも思われました。
 

講評のようなもの D

 投稿者:川部  投稿日:2010年 6月12日(土)14時57分47秒
返信・引用
   これから書くことは、作品を見ながら感じ考えたことを、なるべくまずはその時系列に沿って、その順番で並べながら、しかし同時間的に生まれた複数の考えの道すじや感じ方の在処を、なるべくその都度記述しようと試みたものです。決して、映像の連なりを論理的に意味づけていくことを目的にしているわけではありません。その中で、いくつか特に気になった点については、●を記して、最後に別途書くことにしました。全体的に括弧の多い読み難い文章になってしまいましたし、あまりにもだらだらと長くなってしまっている感もありますが、それも上記のことを試みた結果ですので、どうかご了承ください。



◆D班『黄昏ライター』

 黄昏ライターのタイトルにフェードインで被さるように、誰もいない部屋の画面。画面手前には机があるのか、卓上ライトや辞書があり、畳の上には本がいくつも散らばっている。奥には黒電話と本棚が見えていて、その上には11月のカレンダー。(時代が少し昔のように思える。)夕暮れ時なのか部屋の中は沈んだオレンジ色で満たされている。ドアが開き、男が入ってくる。外からは子供の遊び声が聞こえてくる。ドアを開け放したまま、手前の居間まで男はやって来て机の前らしき場所に座りこむ。少しして、誰かが開け放たれたドアから中を伺うように覗き込んだ後、部屋に入ってくる。(この人物が後から付いてくることが分かっていたから、男はドアを開け放しで入って来たのだと事後的にわかる。この人物がこの部屋の様子を伺っているのか、男の様子を伺っているのかは遠くて見えない。)暗くてそれがどんな人物なのかはよくわからない。ゆっくりと居間の方へ近づいてくると、それは黒い服を着た女であることがわかる。居間と台所の敷居のところで立ち止まり男に声をかける。「なあ、ゆうちゃん?」「あたしこんな気持ちじゃ帰れへん。また、次の日曜日まで会えへんていうのに。」という言葉。今日は日曜日で、二人は、どこかに行っていて、そこで何かあったのかもしれない。毎週日曜に会うようだが、今日はこのまま帰ると後味の悪いデートになってしまうような何かがあったということか。女の方が、一方的に帰る男(ゆうちゃん)を追いかけて付いて来たのかもしれない、とも思うが、ドアを閉めないことからも男もそれを拒んでいるわけはなさそうだ。この部屋は男の部屋のようである。男はずっと俯いたまま女の方を振り返らない(その行為の動機は、本人自身にあるのか、女に対するものなのか、それとも全然別の何かなのか、それら全部なのか、は、男の態度からは具体的には読み取れない。●1)。女の顔は陰になっていてよく見えない。女はしびれを切らしたように「聞いとお?」と男に勢いよく歩きよる。(女の方から男を問いただす感じが、男の苛立ちは自分とは関係ないから、そっちではなく自分といることの方を気にして欲しいというような感じにも聞こえる。)

 画面が横ポジに変わる。押入の前にも大量の本の山。女は困り果てたように男からすこし距離を空けて座ってから、気付いたようにバッグから何か箱を取り出す。男に後ろから近づき、わざとらしく高い声で「ココア飲む?」と声をかけるが、男に手で払われる。男の好物がココアで、女はいつも持ち歩いているのかもしれないとか、今日特別に男に飲んでもらおうと持って来たのかもしれないとか、あるいは、この世界(時代?)ではココアが貴重品なのかもしれない、と思う。女の「お茶でも買ってこようかしら」という提案も、男にすぐ止められる。「じゃあどうしたらいいんよ!」と、一人で勝手に沈み込んでいる男に対し、女は、最近様子がおかしいことを心配しつつ少し攻めるように問いただす。男は、畳の上にぐたっと横になりながら、みじめな自分がつくづくイヤになったと独白してゆく。やはり、男の苛立ちや機嫌の悪い原因は二人の関係とは別のところにあるようだという思いが強くなる。それに対し、「誰かてみじめやろ。こんな世の中やったら。」という女のセリフ(これは何に向けて発せられているのか?ここはどんな世の中なのか?●2)。女は話を聞きながら、うじうじしている男に腹を立てるように叩いてみたりする行為が、男の気持ちを変化させようと試みているようにも見える。(ただ、男が悩んでいる内容については、具体的に、たとえばそれが仕事上のことなのか生活上のことなのか、あるいは自身の性格や人間関係上のことなのかなんなのかはセリフを聞いていてもよくわからない。だが、女にとっては男のその気持ちの対象が何に向けて発せられている言葉なのかは理解しているように感じられる。)同時に、ふてくされたように寝転んで女に向かって愚痴を言う男の声のトーンや態度によって、男の性格や普段の二人の間柄のようなものが垣間見える、気がする。部屋の中に散らばっている本が目につく。女は最初は神妙に男の話を聞いていたが、男の話が続くうちに、男の体の下敷きになっていたジャンパーをたたみだしたり、散らばっていた本を整理したりし始める。時々、男の言葉を聞いていることを示すように動作を中断するが、そもそも男の話の内容に興味がないようにも見えるし、逆に、男が考え込んでしまっていることが大したことない問題だとでも言うように、その重さに引っ張られないように、敢えて、ちゃんとは聞いていない態度で振る舞っているようにも見える(●3)。男はふと起き上がり、話を聞いているのかを確かめるように女の方を向く。男と目が合った女は、本を整理する手を少しの間止める。「俺にはお前だけなんや、昌子」と、男は女の両腕をつかみ、ゆする。じっと見つめ合うが、ふと男は立ち上がり、玄関の方へ。それを座ったまま顔で追う昌子は男がなんで立ち上がったのかわからない様子。カットが変わると、男は敷居のところで立ち止まり昌子の方を振り返り見つめていることが分かる。やや間があって、男は決心したように玄関のドアのところまで行きチェーンを下ろそうとする。その音?(行動?)に反応した昌子は「イヤ、イヤ」と男の行為を止めようと走って玄関へ。二人は玄関前のスペースでもみ合い倒れ込む。男「いつまでも子供か」のセリフ。(どうして男は昌子の腕をつかんで見つめ合った後、わざわざ一度女から離れ、チェーンをかけにいくのか。鍵が閉まっているかを確認しに行ったのか、そのはずが思わずチェーンまでかけてしまったのか?それとも鍵がかからない家なのだろうか。仮にそうだとしても、誰かが何も言わずにドアを開けたり部屋に入ってくる可能性が日常的にある家だということか。その場合であれば、チェーンをかける行為は昌子への気遣いだとも受け取れる。あるいは、女がすぐに部屋から出られない状態をつくりたかったのか?などと色々と思うと同時に、女もチェーンをかけに行った瞬間に、ハッとするように止めに入ったのはなぜなのか。ひょっとして、前にも同じような状況を経験したことがあるのか、それともこれは日常的な行為なのだが、今日はイヤだったのか、はよく分からない。ただ、二人とも、チェーンをかけることによって志向されている状況については、共通の意識をもっているようであることが、互いのセリフや反応によって理解できる。しかし、なぜそれがチェーンだったのか。)暗くてよく見えない玄関で、女が立ち上がり、男に向かって怒るように靴?を投げつけ、「あたし帰る」と言い放ち出て行く。開けっ放しのままのドアの前で、立ち尽くす男。ドア口のへりに寄り掛かる男の後ろ姿。遠くの方で豆腐屋の笛の音が聞こえている。

 男は勢いよくドアを閉め、居間に戻ってくると、机の前まで来て、机の上にあった紙の束を投げ捨て、座り込む。感情をぶつける対象として、紙の束が何らかの意味を持っているのかもしれない。タイトルに出てくるライターとは物書き(小説家?)のことなのかもしれない。これが最初の苛立ちの原因に何か関係しているのかも。思い出したように昌子がたたんでくれたジャンパーからタバコを出し、火をつける。俯いたままぼーっとしている。遠くで電車の音がする。タバコを吸いながら机の上の鉛筆をいじっていると、しばらくして机に頭を突っ伏した後、「これでおしまいかあ」とつぶやく。

 ドアの開く音。男は動かない。玄関の方でカタンという固い物音がする。男は机から頭を離し、誰かが入って来たことに気付いた様子。しかし振り返らない。(画面は横ポジのまま居間に男が一人でいることろ)静かにタバコを消す。(画面が縦ポジに変わる)暗い玄関の方で誰かがチェーンをかけていて、かけ終わると、ゆっくり居間の方へ歩いてくる。足下の方だけは光がとどいていて、よく見ると靴のままだ。そのままに居間に入ってくる辺りで完全にそれが昌子だと観客には識別できるようになる。昌子はそのまま居間に入ると、後ろ手でガラス戸を閉める。男はまだ俯いたままわずかに動揺したように動いているが振り向かない。(男には、入って来たのが昌子だとわかっているようだ。玄関の音で、それが昌子だとわかるのだろうか。●4)昌子は男の方を見ながら、スカートの腰の辺りを手でいじる。衣擦れの音とガラス戸に昌子の手が当たる音。男が座ったまま勢いよく振り返る。(が、なぜこの瞬間に振り返るのか。)スカートを完全に下ろす昌子。「なんで」と男は驚き動揺したような声をだす。なおもコートのボタンを外していく昌子。男は昌子の方を向いたまま動かない。カメラに対し後ろ向きなのでどんな顔をしているのかはわからないが、昌子のスカートを脱ぐ行為に対する男の動揺した反応から、このような行為が2人にとって頻繁に。昌子の手がボタンを外しきり、コートを脱ごうか躊躇しているように見えた、その瞬間、男は立ち上がり、「もうええよ」と昌子の行為を止めさせる。(カメラがバストショットに変わる)「お前アホかよと言いながら」男は昌子を抱き寄せる。泣き始める昌子。外からの光が男の背中に当たっている。男は昌子と額をくっつけながら、なんでそんなことすんねん、お前の気持ちわかったから、アホやなあ、などと言う。下に下ろされたままの昌子の左手は、かたく握られているのが見える。しばらくして男は体を離すと、「もう一度、街へ出ようか、飯でも食べに行こうや」と言う。うなずいたように見える昌子。と同時に男は下を向くと昌子の格好が目に入ったのか少し笑う。男はしゃがみ込み、スカートを履かせようとしているようだ(画面外であまり見えない)。すぐに昌子から手で払われる。男はしゃがんだまましばらく見ているようだが(画面外であまり見えない)、もう一度昌子から叩かれると、笑いながら立ち上がり、昌子とは反対の方を向く。(カメラが立てポジに変わる)昌子がスカートを着終わり、服を整える。男は上着と昌子のバッグを取り、ガラス戸を開ける。昌子から先に玄関の方へ。ドアが開くがガンッと何か音がする。男が「アホ」と笑いながら言う声。一度ドアが閉まりチェーンを外す音。再びドアが開き、昌子は先に出て行く。玄関で靴を履こうと手に持った男が、ふと廊下の昌子の方を見る。昌子の手らしき影がすっと男に伸びると、そのまま男は引っ張られるように音もなく廊下の方へ姿を消す。誰もいない部屋と開け放されたドアが残される。黒にフェードアウト。




●1:男が一人部屋に帰って来てから、「そろそろ愛想がつきたやろ」と言うセリフまで、男は机の前に座りつづけ、女からの色々な呼びかけにほとんど一方的な「拒否(無視?)」という態度しかとりません。何かここには、見ている側の感情や緊張を逃がしていくものがあるように思えてなりません。もしかするとこれは、そのような態度を男にとらせてしまう原因が何にあるのか、ということがどこかで示されることによって解決することのようにも思いますが、同時に、そのこと自体が具体的に示されるかどうかという問題ではないようにも思います。ここで重要なのは、男にとっての意識が昌子に向かっているのか、それとも別の何かに向かっているのか、という程度のことが昌子のセリフや態度からだけでなく、男の態度からも(もっと言えば、昌子への消極的なリアクションではなく、積極的なリアクションか、あるいは逆に、昌子に向かって成されるのではなく男自身の意識の中にある対象に向かっての行為によって)感じられるかどうかなのではないかと思われます。
 現状では、雄造の苛立ちは、雄造に対して昌子がとる態度(自分といることにもっと意識を向けて欲しいというような昌子の態度)によって、初めて支えられている演技になってしまっているように感じられます。この時、雄造の現在の心境を生み出している志向対象は自分自身なのか昌子なのかはたまた別の何かなのか、その対象や関係はすぐには分かりません。そのことは昌子の態度によって、だんだんと消去法のように、原因は昌子ではないようだということがわかってくる程度です。しかし、雄造が一定のテンションで昌子からの行為を拒否したり無視したりするさまは、雄造自身が作り出した行為というよりは、昌子に向かっての消極的なリアクションとしてしか開かれていないように見えてしまうため、志向対象が昌子ではなく別の何かのはずだという思いもすぐに曖昧なものになってしまい、雄造の思考のベクトルを見失ってしまいます。この時、見ている側の感情や緊張も逃げていく(繋がっていかない)のではないかと考えられます。つまりは、雄造という存在が、昌子の存在とはある意味無関係に、雄造の原理で動くことによって初めて、昌子との関係を作れるということなのかもしれません。

●2:「誰かてみじめやろ。こんな世の中やったら。」というセリフは、この二人にとっての共通了解としてあるのでしょうか、それとも、この作品の世界の中での共通了解としてあるのでしょうか。どんな世の中だから、この雄造の置かれている状況を悲観しなくてもいいのだと昌子は言えるのでしょうか。というか、そもそも雄造はどんな状況に置かれているのでしょうか。たとえばココアについての雄造のリアクション一つとっても、この世界観を表す要素として機能させることができるようにも思います。

●3:この女の具体的な行為が、この男女間の会話の関係を、男が話している言葉の意味だけに一面的に集約させていくことを回避させているように感じられます。部屋は暗く、二人の顔や表情は伺うことができないので、二人がどのように相手を認識しそれによって振る舞いが変化しているのかは観客にとっては見て取ることができません。この場面の、声のトーンや目に見える身体を使った行動によって初めて、それぞれが独立した原理で動く人間として、一面的に解釈されない複雑な二人の感情や意思疎通のあり方が見えてきたようにも思います。
 この作品において、光の差し込み方やその暗さが、全体的なある雰囲気を作り出していることは確かですが、そのことによって失われたことも多いように思いました。登場人物二人は、お互いの動きや表情や目の動き、声の大きさやトーンによってその時感じ合って動いている訳ですが、この暗さによって、映像を見る側にとってはその複雑な感じ合いの様子は隠されることになります。そのこと自体が何かイメージを想像させたりサスペンスを生み出すこともあるかもしれませんが、一歩間違うと、二人の感情の動きを単純化させるものとして影響してしまうように感じられました。
 これは音についても同様です。この作品の環境音は非常に自覚的に構成されているのですが、例えば全ての音の距離感(電車の音、豆腐屋の笛、子供の声)が同じ大きさで存在していたり、豆腐屋の笛や電車の通過する音のタイミングが、何かの間を埋めるように、あるいは登場人物の感情の効果として聞こえてしまうと、すぐにそれは人物が生活する世界の状況(人物とは別の原理で存在する複雑さや豊かさを含めた世界)の方ではなく、意味化された記号として人物の感情に奉仕する飾りとして聞こえてしまうようにも思われます。

●4:仮に、入って来たのが昌子だと音によって雄造が認識していたのだとして(その後、雄造が振り向く時に、そこにいるのが昌子で驚かなかった様子を見ると、昌子以外の人を予想していたとも考え難いし。)、雄造は昌子のスカートを脱ぐ衣擦れの音まで振り向こうとしませんでした。ここで男を振り返らせない力(気持ち)が作用するとしたら、それはどのような力(気持ち)なのでしょうか。振り返るタイミングは、ドアが開く音でも、昌子がかけるチェーンの音でも、台所を靴で歩く音でも、ガラス戸を閉める音でも、それぞれに昌子の帰って来た気持ちを感じる瞬間はあったように思います。にも関わらず、それでも振り返れないのだとすれば、直前の「これでおしまいかあ」のセリフをつぶやく雄造の気持ちというのは、どこに向かって発せられたものなのでしょうか。もちろんもしかしたら、雄造の感情の流れの中では、振り返るタイミングは衣擦れの音とは関係がないのかもしれません。しかし、ここでも、●1のところと同様に、雄造自身の中で働いている行為の原理(力)が、昌子の行為の受け(振り向かない/振り向けないという消極的な反応)のみによって存在しているように感じられる点と、そもそも昌子だとどのように認識しているのだ?という疑問とで、緊張感を相殺させてしまっているようにも感じられます。
 

講評のようなもの A

 投稿者:川部  投稿日:2010年 6月11日(金)00時05分35秒
返信・引用
  ◆A班『浮かない雲』

 冒頭は、手を洗っているのか、台所の流しの中に手を出して水につけているところから始まる。流しの中にはカップ麺の空き容器がいくつか転がっているのが見える。男が手を洗うのをやめ(傷を洗っているようには見えない)、振り返ると、それに合わせてカメラも移動し、居間の方へと左回りで男の背を追いかける。この時、女は三和土のところに立っていて、男の動きに合わせて居間の敷居のところまでやってきて立ち止まる。(最初はそれがわからず、もともと台所にいて、男のことを後ろから見ていて、その後、男の動きを追って居間の敷居のところに立ったようにも見える。)どうやら、この部屋は男の部屋のようである。居間に入ってすぐに男が上着を脱ぐので、二人は今外から帰って来たようにも見えるが、男が上着を脱ぐ様子はあまり映らないため、女が訪ねて来たようにも見えるし、二人とも最初から部屋にいたようにも見える。この時点では、この作品が始まる前の時間を想像することは難しい。外は昼間のようだ。(●4)

 女は居間に入ると男の右斜め前に座りながらハンドバッグを置く。最初は、女の方から男の沈んだ気持ちを明るくさせようという言葉や態度が垣間見えるが、しかしなぜ、男は不機嫌なのか、どうして女に冷たくあたっているのか、あるいは自分の世界に閉じこもっているのかこの時点ではよく分からない。(ちなみに、このことは最後まで具体的な言葉や行為、事象としては示されることはない。何かしら示されているとすれば、それは部屋の汚さくらいだろうか。しかし、それが何を示しているのか。)女のセリフによって、今日が日曜日であること、週に一度日曜日に2人が会っているということが示される。今日もデートだったのか、デートのために女が家に来た時に何かあったのだろうか。女が場を明るくさせようとすることによって、もしかしたら男の不機嫌の原因をそもそも作り出したのはこの女なのかもしれないとも思えてくる。しかし、そこで「そろそろ愛想が尽きたろう?」という男のセリフ。男が、自分の境遇を蔑むような独白が始まる。女が返す言葉にもあまり良い反応をしない。ということは、この男(ゆうちゃん)の不機嫌な様子は、女が何かしたこととは別の動機によるのかもしれないとも思えてくる。男が畳んだまま出しっ放しになっている布団に仰向けに倒れる。外から部屋に差し込んでくる光が揺らめき、男が勢いよく話していたのが途切れたことで、外が静か過ぎることが気になってくる。まわりに何もないような場所なのか、しかしそのすぐ後、俯瞰の構図になった時に、まわりには家が普通にあることが見える。静か過ぎるし、窓外の風景の上の方が白いのでひょっとして外は雪でも降っているのか。しかし部屋はあまり寒くなさそうだ(●1)。ふと、起き上がり、男が女を押し倒す。しばらく抵抗する女。男が途中で動作をやめる。なぜやめたのかはよく分からないが、女の視線が男を動揺させたのかもしれないし、女の力の入れ方が変わったことに男が反応したのかもしれないし、どちらにせよ、見ている側には、その差がわからないだけかもしれない。2人、しばらく俯いている。カットが変わり右側の空間が大きくあいた引きの画になる。(しかし、なぜここでカットが変わるのか。●2)男が昌子のバッグを取り、自身の体の左側に叩き付ける。男が昌子のバッグを叩き付けるのは、昌子に対するいらだちのようにも見えるが、どこか中途半端な力の入れ具合や昌子とは反対の側にわざと置くように投げる投げ方が、男の意地の悪さも感じさせる。昌子は「帰る」と言い、バッグには目もくれずに帰る。帰り際にバッグの横をすり抜ける昌子の気持ちはどのようなものなのか。昌子の「帰る」のセリフは、色々考えていたことが、バッグを投げられたことをキッカケにパッと飛び出したようにも聞こえたが、バッグの横を通りながら、それを拾わないとすれば、敢えて拾わないか、投げられたことにそもそも気づいていなかったのだろうか(後ろを向いていたし)。敢えて拾わないのだとすれば、それは昌子の怒りの表明のようにも見える。昌子の出て行くドアの音。

 画面はすぐに、蛇口のアップ → アップのバッグとクマのぬいぐるみのキーホルダーに変わる。手が出て来て、バッグを持ち去る。玄関の前に立つ男。昌子が出て行った後の男を映す代わりに、蛇口のアップがくるため、昌子が出て行った後の男がどのような気分でいるのか、その様子を感じる時間はない。蛇口のカットをよく見ると、蛇口から水が落ちそうで落ちないところが映っているが、それがなんなのか、考える間もなく(仮にそれが何かの隠喩や比喩なのだとしても、それを何かの隠喩や比喩だと決めているのは誰なのか‥‥)、クマのアップに変わる。と、男の手が出て来てバッグを持ち去り、クマが残される。(男がバッグを取るという動作よりも、そこにクマが残されたということが強調されている。)玄関の前で立っている男が、昌子を追いかけようとしてそこにいるのかもしれないことは意味としては見てとれるが、そこにどんな迷いや思いがあるのかはよくわからない。なぜ、やっぱりやめたのか。居間に戻ってくるときに、ポンと布団にバッグを投げるところで、諦めというよりは追いかけようとした行為に対する動機の軽さの方を感じる。

 一人座り込み、気づいたようにタバコを吸おうとするが、ライターの火がつかない。窓外から差し込む光が、ゆっくりと暗くなっていく。ふと視線を落とし、クマのぬいぐるみに気づく男。じっとそれを見ている。戸外からの光はゆっくりと静かに暗くなったり明るくなったりを繰り返し、外では、風が吹き、雲が動いているのだと想像できる(●3)。そこにあるクマのぬいぐるみは、まだ新しく、子供っぽいもののように見える。(男にとって、このクマのぬいぐるみはどのようなものなのか。観客にとっては、それが昌子のバッグに入っていたということはアップのカットで事前に示されているが、男にとっては今気付いた訳で、バッグを叩き付けた場所にぬいぐるみがあったことで、昌子のものだと判断できるのだとしても、それを見ながら何を思っているのだろうか。もしくは、このクマのぬいぐるみが昌子のものだということは知っていたのだと考えることもできるかもしれない。2人の思い出の品だとか、前から昌子が持っているのを男は知っていたとか、だとすれば、それを見ながら何を思っているのだろうか。)先程までの昌子の姿から、このようなクマのぬいぐるみを持ち歩いているようには見えなかったが、以外と子供っぽい女性なのかもしれない。あるいはそれを大切に持ち歩いている理由が何かあるのかもしれない。男はぬいぐるみからすぐに視線を外して机の方に向き直る。その動作から、男がぬいぐるみに対して既にある程度情報を持っていて、ぬいぐるみを見つけたことがなにかしらの感情を動かしたようにも見える。

 誰かが帰って来るドアの音。音に気づいて玄関の方を振り返る男。気まずそうにまた顔を居間にもどす。男の顔のアップ。下を見ている。部屋全体が映る引きの画になり、居間に昌子が入ってくる。何も言わずに服を脱ぎだす昌子。ただそれを驚いて見ていた男は、ワンピース1枚になり肩が露出したところで、ハッとして男は抱き寄せるように昌子の行為を止めさせる。画面は男と昌子の腰のあたりのよりに変わる。男の手は昌子を抱いているらしく映っていない。だらんと垂れ下がる昌子の手が、時々、ワンピースの裾を苦しそうに掴む。男が、昌子に「いいんだよ、わかったから。ありがとう。」と声をかけている。が、男のテンションがやけに落ち着いているように感じられる。昌子の泣き続けている声が聞こえる。昌子が自分の体を投げ出したことに対する、男の声の反応の冷静さ(あるいはちょっとめんどくさそうにも聞こえる感じ)は、一体どこからくるのか。ここの声のトーンのせいで事後的に、最初に男が自分のダメさや苛立ちをぶつけながら昌子を求めたその行為自体が、ある決意を伴ったものではなく、単なる思いつきの自分勝手な欲望の吐き出しだったようにも思えてきてしまう。昌子のだらんと垂れ下がった手が男を掴まないのは、結局この男のこの反応を信じきれないと思ったからではないのか。とも見て取れる。しかし、ここで昌子の側のことを考えてみると、男に迫られて怒るように(バッグを叩き付けられた時の一連の流れで)部屋を出て行った昌子が、なぜ少しの時間を置いて戻って来たのかということもまた、出て行く前の昌子と戻って来た昌子とを繋ぐ感情がどこかで断絶しているように感じられ、それに対する男の感情を分からなくさせている原因のようにも思える。

 男は、泣き続ける昌子に対し、唇を噛み締めるような表情で見ているが、「お茶でも飲みに行こうか」と軽い感じで言い、昌子の反応を待つ前に、一人、上着を持って出て行く。画面は、昌子の後ろ姿と、出て行く男の無表情な顔。一人残された昌子は、カーディガンを持ったまま、泣いている。表情は、ある決意を持ってやった行為と思いが、結局男には簡単に受け流されてしまい届かなかったとショックを受けているようにも見える。ラストは、一人、部屋で立ち尽くす昌子のフルショット。(なぜ、男はすぐにその場を離れたかったのか。昌子の反応を待たずにすぐにでも出て行きたい理由があったのだとすれば、それは自分に対する思いなのか、昌子に対する思いなのか。もちろん、男は「お茶でも飲みに行こうか」というセリフを軽く言っている訳ではないのかもしれないが、そのセリフは上着を取ろうとフレームアウトしている最中に画面外から聞こえてくるので、どんな表情でその言葉を言っているのかは見て取れない。そのセリフを男に言わせる直前の昌子の表情も、画面に対し後ろ向きなのでわからない。これらのことが、「お茶でも飲み行こうか」を言う直前の男の表情(唇を噛み締めるような顔)を、より印象強くするために、男が昌子の思いを分かりながらも、敢えてそれには応じないというか受け止めないとうか、面倒くさそうに離れていくという態度に見えてしまっているようにも思える。あるいは、どんな気持ちでこの言葉を言っているのかということ自体を、分からなくさせているようにも思える。

 この作品のラストは、立ち尽くす昌子の姿で終るが、果たして昌子を置いて出て行った男は玄関の外で待っているのか、あるいは一人で行ってしまったのか。(ということを想像させるだけで終らせてしまっていいのだろうか。)待っているのだとすればどんな風に待っているのか、行ってしまったのだとすれば昌子を置いたまま出て行く男の表情や誰もいない廊下があるだけでも、男が、昌子から見えない場所で、昌子が戻って来てからの行為に対して、どのように思い振る舞ってしまっていたのかというリアクションを見れたような気がする。



●1:環境音がまったくの無音ということそのものが、二人のいる空間を非現実的なものとして印象づけているように思います。そのことが狙いなのだとしても、画面外や、部屋外の音がないことによって、見る側の意識は画面に映っているものにより集約されていく機能を果たしているように思います。二人のやり取りの言葉や声のトーン、互いの反応が、常に今目の前にいる相手のみを対象としてしまっているように見えるため、その反応の仕草や声の調子ひとつひとつがなぜそのような行為として現れてくるのか、単純化・意味化されやすくなってしまっているように感じられます。あるいは、単純に見ている側にとって、音が少ない分、感じる要素が減り、見えている人間の行為に敏感になってしまっているのかもしれません。そのことが、演技の質が問われやすく、あるいはうまくいっていない部分が見えやすくなっている原因のように思われます。(それに対して、この作品の中で光の扱い方は、音とはまったく逆の現れ方をしているように感じられます。それについては※3で。)

●2:なにか行為・事象が起きる直前にカットが変わると、それを写したいためにカットが変わったように見えてしまうことがあります。それは往々にして、行為・事象が起きるための空間が事前に用意された構図によって顕在化することが多いです。(ここでは、バッグを叩き付ける空間として、画面の右側が準備されているように見えます。)私たちはついつい、何かが起きることと、それを見せることを同時に用意してしまいがちですが、そのことによって、それは事が起きる前にそれを知っている存在(作者)のことを見ている側に意識させてしまうように思います。見ている側の反応や心情とは関係なく、違う論理で動くなにかとして、カットの繋ぎ目が認識されてしまうということかもしれません。それは演技に対しても同じで、バッグを投げるための空間をわざと空けたようにもみえるので、そのようにバッグを投げてくれと言われたからやっているような演技の印象も生んでしまっているように見えます。
 もちろん、見ている側の心情とは関係なくカットが切り替わることそのものや、待ちポジそのものが常に悪いというわけではないとも思います。それは、それぞれの作品の中で、ここではそのようにカットが切り替わっていくのだという、作品ごとに作り出される論理やルールとして認識されることによって、より力強いイメージを生むことも考えられますので、一面的に考えないように注意が必要ですが。

●3:光について。この作品の中では、部屋外からの光は一定ではなく、常に揺れ動いています。それは、登場人物の二人のやり取りとはまったく別の次元で動き続けることによって、二人が存在しているのと同じように、部屋の外にもちゃんと世界が存在しているのだという現実感を支えているように感じられます。男が布団に仰向けになっている場面や、昌子が出て行った後男が一人で部屋にいる場面など、光の移り変わりが特に機能していたように思います。男の方の声のトーンや行為のテンションが全体を通して女より比較的一定であるのに対し、戸外から差し込む光が揺れ動くことで(光が行為の直接的な動機ではないからこそ)、そこに、単なる二人の会話の間や、一人部屋でうなだれる男という時間を越えたものへと、その場が昇華されているように思いました。人物がその場に存在するあり方が、単にのっぺりと同じテンションなのではなく、外的な刺激を受けつつもその上であるテンションを保っているようにも見えてきます。そのことが、画面を見ていくこちら側の気持ちや感情を繋ぎ止めていくものとして作用しているのだとも考えられます。(もし、そのような注意力をもって音についても考えることができていれば、この二人が生きる時間は、より、魅力的なものになったようにも自分には思われます。)

●4:最後に、最初の場面について。やはり、部屋の中から始めたということが(正確には、手を洗っているアップから始めたということが)、この作品にとっては、その後の展開にとって大きな足かせとなってしまっているように感じられました。もちろん、映画はいつだって突然に始まるものですし、多くの作品は、そのことを隠しつつ冒頭から色々な要素を使って状況を説明してゆくことで、なんとか見ている側に突然に始まったことを気付かせないようにしているのだと考えれば(もちろんそのやり方が全てではないけれど)、ある意味この作品は非常に潔くもあります。
 ただこの作品においては、単純に、男が最初から部屋にいたのか、女がどこから登場したのか、などといったことでさえ冒頭の状況だけでは理解がし難いために、その後の流れにスムーズに入っていくことを阻害させてしまったようにも感じられるのです。その後の二人のやり取りの緊張感を登場人物二人の間だけではなく、見ている側にも作り出すためには、映画がどこから始まるのか、ということも重要な要素になってくるのではないでしょうか。
 

Re: 質問です

 投稿者:映像研竹中メール  投稿日:2010年 4月25日(日)01時28分2秒
返信・引用
  > No.16[元記事へ]

F班 市川さんへのレスポンス

新宿サテライトの利用は研究室を通しての予約が必要ですので、
使用したい日時をお知らせ下さい。
確認したところ、27日(火)も空き教室がありますので、時間を教えてください。
それから、授業時間であっても役者さんをお呼びした際は、一緒にいた時間と、学外であれば場所を教えてください。
よろしくおねがいします。
 

質問です

 投稿者:F班 市川  投稿日:2010年 4月24日(土)18時33分44秒
返信・引用
  新宿サテライト校を役者さんの打ち合わせ時に使用しても良いと聞いたのですが、
使用出来る時間帯と申請方法などを教えてもらいたいです。

27日(火)に使用することが出来れば使用したいのですが…
 

Re: E班報告です。

 投稿者:池田  投稿日:2010年 4月22日(木)09時32分26秒
返信・引用
  > No.14[元記事へ]

池田さんへのレスポンス

E班安藤さんへのレスポンス

了解、それはよかったですね~。
顔合わせしたことによって自分たちに起こった変化などあれば今後の会議に是非活かしていって下さい。
 

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